アグリサイエンティストが行く

農業について思ったことを書いていきます。少しでも農業振興のお役に立てれば。

新芽を食べる ~地面からにょきにょきアスパラガス~

今回はアスパラガスです。申し訳ないですが、一品目でのご紹介。

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野菜解説シリーズ、今回は少し趣を変えてアスパラガス単独でやってみます。古い分類でユリ科野菜とするとネギ属はすでにやってしまったし、クサスギカズラ科とするとこれしかない。軟化・芽もの野菜という分類でやるとスプラウトやウドなどと同じ括りになってやりにくいので、勘弁ください(^^ゞ。


アスパラガスの分類は、古い分類だとユリ科ですが、現在はクサスギカズラ目クサスギカズラ科クサスギカズラ亜科クサスギカズラ属とされています。日本に自生している近縁種のクサスギカズラがその分類名の由来ですが、野菜として栽培されているアスパラガスの直接の原種ではありません。


野菜として栽培されているアスパラガスにも実は和名があり、オランダキジカクシと呼ばれています。これも日本に自生しているクサスギカズラ科の野草、キジカクシがその由来ですが、それも近縁種ではありますが原種ではありません。


アスパラガスは野菜の中では珍しく多年生で、東北などで行われる掘り上げての伏せ込み栽培を除いて、一度植えれば10~20年程度そのままの株を使用して栽培されます。暑さ寒さ、肥料の濃度障害にも強く、現在では世界中で栽培されています。


原産地は中央・南ヨーロッパで、北アフリカ、西・中央アジアにも自生しています。クサスギカズラ属の植物は300種ほどあるといわれていますが、そのうち食用として栽培されているのはAsparagus officinalis L.var.altilis L.の一種のみです。


野菜としてのアスパラガスはこれも非常に歴史が古く、古代エジプト王朝ではその王たちに高級料理として供されていた様子がピラミッドの壁画に描かれているということです。ただ、当時は自生していた野生種を採取してくるのみであったと考えられています。


紀元前200年ごろのローマ時代になって栽培が始まったとされ、そのころの農業書に栽培の様子が詳細に記録されています。ただ、野菜というよりは薬草として利用されていたと考えられ、利尿作用などが利用されていました。確かに、アスパラガスを大量に食べるとそれらしい臭いのおしっこになることがありますね( ̄。 ̄;)。


ちなみに、アスパラガスの薬効成分として有名なのはアスパラギン酸で、もちろんアスパラガスがその名前の由来ではありますが、たまたま発見されたのがアスパラガスからというだけでアスパラガスに大量に含まれているというわけではありません(と思っていました)。ほかにもっと高濃度の野菜は存在するらしい。


中世になって痛風に効果があるといわれるようになり、ホワイトアスパラを食べる習慣が始まりました。特にルイ14世が好んで食べたといわれ、臣下に一年中食卓に乗せるよう命じたということです(*゚Д゚)。一般に広まったのは19世紀になってからのようです。


日本人にはあまり好まれない(偏見です)ホワイトアスパラの缶詰は19世紀に北アメリカに持ち込まれて栽培が始まり、そこで作られたものが最初ということです。日本でも缶詰用ホワイトなどで北海道の栽培面積が増加しましたが、現在では缶詰用主産地は中国に移っています。


日本への伝搬は最初の記録は江戸時代で1784年の「質問本草」に「石柏(せきちょうはく)」という名前で紹介されています。それ以前にもオランダ人によって長崎などに持ち込まれていましたが、食用ではなく観賞用だったようです。


明治時代になって、北海道の開拓使アメリカから導入した種子を持ち込んだのが栽培の始まりとされています。また、その後アメリカの技師を招いての導入も試みましたが、試作程度に終わったようですね。


大正7年に北海道で下田喜久三がアスパラガスの栽培を始め、ドイツの品種とアメリカの品種の交配から「瑞洋」という品種を作成し、その後直営農場を設けて「日本アスパラガス株式会社」を設立、缶詰ホワイトアスパラの生産を始めました。


生食用のグリーンアスパラの栽培が始まったのは昭和30年代後半からで、消費者の嗜好にマッチし、栽培が容易であることなどから生産が増加していきました。昭和50年代には水田転作によってその面積はさらに広がり、一時のピークは過ぎた感がありますが、全国で6490ha(平成22年度)栽培されています。

 

日本ではほぼ周年供給されているアスパラガスですが、自然に任せていると沖縄を除いて日本の冬では収穫は不可能です。西日本の露地栽培では4月ごろから収穫が始まり、10月中下旬には低温により萌芽が停止します。そこでハウス栽培で保温を行うことにより、1月からの出荷を可能にしています。


東北や北海道、北関東などでは電熱温床などを用いた伏せ込み栽培を行っていて、11月頃に掘り上げた株を電熱温床で加温することによって年内出荷を行っています。それでも国内生産では端境期ができるため、11月ごろには中南米産のものが輸入されています。


日本に自生しているクサスギカズラ科の野生種は4種あり、先ほどから紹介しているクサスギカズラ、キジカクシのほかタマボウキ、ハマタマボウキがあります。キジカクシ、タマボウキは山間地などで見られますが、クサスギカズラ、ハマタマボウキは海岸沿いなどに分布しています。


それらのうち、キジカクシの新芽はアスパラガスと同じく食用に供されることもあるようですね。また、クサスギカズラの塊根は天門冬という生薬で、漢方薬に使われるようです。ただ、クサスギカズラ科の野生種はレッドデータブックに掲載されいていることが多いので、採取は控えてくださいね(^^)。

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ちなみにずいぶん前の話ですが、このブログ記事の内容と同じものをTwitterでつぶやいていたら、アスパラガスのアスパラギン酸が多くない、のところでフォロワーさんから次のようなご指摘をいただきました。

 

疲労回復効果を期待するほどではないけど、まぁまぁ多いみたいですね(笑)