アグリサイエンティストが行く

農業について思ったことを書いていきます。少しでも農業振興のお役に立てれば。

種苗法はなんのために存在するのか、そして改正法の要点は?

種苗法改正について以前のエントリーで取り上げ、登録品種の自家採種は原則禁止になる、というのは一般的な生産者にとっての不利益はまずありえないということを解説させてもらいました。その後、一部の条文について施行(令和3年4月1日)が近づいていますが、未だにいろいろな話がくすぶっているのが現状です。そこで、それを解消するための役に立つかはわかりませんが、今回から何回かに分けて種苗法改正条文にとどまらず、種苗法の内容やその存在意義について解説してみたいと思います。ってこの先どういう展開になるか、今のところ自分でも読めません(@@;)

agriscientist.hatenablog.jp

 

まず、種苗法の存在意義についてのお話から。全体の解説として、一般には農林水産省が公開しているpdfがわかりやすいかと思います。ていうか、よくできていると思いますのでこれ読め!で話は終わるところですが(笑)そうもいかないのでこのpdfをベースにポイントごとに解説を試みる、というスタイルでやっていってみましょう。

※これ以降、スライドの画像は農水省のpdf「改正種苗法について~法改正の概要と留意点~」より引用

 

まず、「種苗法改正の背景」という項目から始まります。「優良な新品種が支える我が国農業」とあります。よく言われるように、日本は面積は狭いものの東西にも南北にも長く、気候も土質も様々です。その中で、優良な農作物を作るためにはその環境に合わせた性質を持った新品種を育成する必要があります。また、(外国に比べて特に優れているかは置いておいて)日本には豊かな食文化があり、それらに対応するためには特色のある品種を多数育成する必要があるわけです。

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※改正種苗法について~法改正の概要と留意点~2ページより

 

例えば、日本にはほぼキュウリの品種育成のみを専門とした種苗会社が複数存在するほどで、それぞれ十数種もの登録品種を常にラインナップしています。私はキュウリの栽培指導を担当していた経験もありますが、すべての品種についてその特性の把握はおろか、名前すら覚えきれませんでした(自慢にならない)。

 

これら最新の登録品種は、耐病性などこれまでにない特徴を持っている場合が多く、生産者や産地が他との差別化を図るための役に立つことが多いといえます(もちろん、逆に懐かしさを活かしたり地域特産として古い一般品種を使う方がより戦略的に有利ということもあり得ます)。

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 ※改正種苗法について~法改正の概要と留意点~4ページより

 

ちょっと脱線しました。
ともかく、これら新しい登録品種の育成には多大な労力と資金が必要で、特に最近はその特徴が細分化されていますから、膨大な交配の組み合わせをしてみて、優れた形質のものができても既存品種と区別がつかないなどの理由で廃棄されたものも無数にあります。それだけの手間と資金を投入して作られたものですから、登録品種としての期限(野菜などでは25年)が切れるまでにその投資を回収しなければなりません。しかも、市場投入した品種がすべて売れるとも限りません。なので、どうしても種苗代金は高くなりがちなのです。ですから、なおさら育成者権を守り、その利益を確保する法律として種苗法は必要なのです。

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 ※改正種苗法について~法改正の概要と留意点~5、6ページより

 

ちょっと長くなりそうなので、今回はここまで。次回からは改正のポイントについてお話ししたいと思います。