アグリサイエンティストが行く

農業について思ったことを書いていきます。少しでも農業振興のお役に立てれば。

種苗法4 「登録品種の増殖は許諾に基づき行う」

さて、4回目となる今回は農水省のpdf改正種苗法について~法改正の概要と留意点~11ページの項目から、「3 登録品種の増殖は許諾に基づき行う」についてのお話です。


以前のエントリー「農家さん、ご心配なく。種苗法の一部を改正する法律案についての解説」で自家増殖一律禁止などの誤解についてはすでに解説しました。今回はその他の細かい注意点などについてお話ししたいと思います。

ちょっと横道にそれますが、自家増殖の禁止(許諾制への移行)を反対されている方が懸念されている状況への説明は、農水省のpdfにもありますので、そちらも紹介しておきます。ここは、上記のエントリーで自分も同様の説明をしたかと思います。

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 ※改正種苗法について~法改正の概要と留意点~6、7ページより

 

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※改正種苗法について~法改正の概要と留意点~17ページより

 

では、話を戻して上のスライドから順を追って説明しましょう。


「登録品種については、農業者による増殖は育成者権者の許諾を必要とする」とあります。ここが以前問題となった部分ですね。これまでは農業者は自分の経営に用いる限り自由に増殖を行うことができていました。それが許諾を得ない限りできなくなったわけですね。


しかし、発明品などの特許を考えればわかりますが、多大な労力と費用をかけて開発した品種の優良種苗が簡単に無料で増殖可能なのであれば開発者が新品種を育成するメリットがなくなります。これが、国や都道府県などの公的機関が育成したものなら公共の利益のためにそうすることもわかりますしむしろ(状況に寄りますが)当然とも言えますが、民間の種苗会社は利益を出すことができません。なので、今回の改正は極めて妥当なものと思われます。
(F1品種など、実際には親と全く同じものを増殖するのは技術的に不可能に近い場合も多いのですが、それは今回の主題からは外れますので脇に置いておきます)

 

今回の改正において、許諾を行う際に農業者に対して適正な利用条件の提示等が行われるため、種苗の増殖が技術的にも適正に行われやすくなるというメリットもあります。例えば、イチゴなどは種子を使わず、親株の植物体の一部でであるランナー(匍匐茎)を使っての増殖になるため親がかかっていた病原ウイルスなどを完全に除去することはできません。そこで、公的機関や種苗会社などがバイオテクノロジーの手法を活用してウイルスフリー株(無病株)を養成するわけですが、およそ3年に一度の割合で親株を更新していかないと栽培の現場ではどうしてもまたウイルスにかかってしまい、品質や収量の低下を招くことになるので、そのような技術的条件を示しておくことは重要になります。

 

前回のエントリーでも触れさせていただき、たびたび例に挙げて申し訳ありませんがイチゴなど購入した親株から苗を増殖するのが普通に行われている品目で都道府県が独自ブランドでしのぎを削っているような場合、地域農協に自家増殖まで翌年以降の親株にすることまで含めて一括して許諾し、生産者の事務手続きなどの負担を軽減しているような例もあります。これは改正前の従来法でも同じ扱いでした。

 

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フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com)

 

もちろん、育成者が許諾を必要とせずに自家増殖を認める場合、育成者がその旨を明示すれば従来通り制限がかかりません。この場合だと従来法と何ら変わることはないわけですね。

 

一応、今回も念押ししておきますが登録品種以外の一般品種(期限が切れた登録品種も含まれる)では、従来と変わらず、自己増殖は自由に行えます。

 

さて、今回は一気に最後の項目まで説明できればと思っていましたが、またしても話が長くなってしまったので残りは次回で…終わらせたいなぁ(泣)