近年、肥料資源の枯渇が懸念されることや、それに伴う肥料高騰などが問題になっています。また、通常の農業生産技術の面からも土づくりが重要視され、循環型農業の必要性が高まってきています。

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わが国では、完全な循環型農業が実現したとしてもなお有機質資材が不足すると言われています (その詳細な解説については、別項で解説させていただきます)。そのため、使用可能な有機質資材は余すことなく活用する必要があります。
その中で、一般的な家畜ふん堆肥などのほかにも様々な資材があり、近年使用例が増加しつつあるのが下水汚泥を原料とした有機質資材です。
下水汚泥は窒素やリン酸など植物の栄養成分が豊富で、国外や国内各地で、乾燥しての肥料化や脱水後発酵させて堆肥化、リン酸の回収など農業用に有効利用されており、これから積極的に利用していくべき有機質資材であると言えます。
しかし、下水汚泥には有害物質が含まれている場合があり、それが農業用での利用に対し、障壁となっています。農林水産省では、下水汚泥を肥料として利用する際(以下、汚泥肥料)には、ヒ素、カドミウム、水銀、ニッケル、クロム、鉛について基準値を設定し、これを超えるものは流通を規制しています。
ところが、近年これらに加えて、フッ素の有機化合物(PFAS)も汚泥肥料に残留していることがある、ということが分かってきました。規制の対象となる主なものとしてはPFOSとPFOA、PFHxSがあり、それぞれ工業製品の中間材料や消火器の内容物などに使われています。これらは環境での残留性が高く、また難分解性であり、人体への毒性も確認され、動物実験では胎児の発生に影響が見られていることから遺伝毒性も懸念されているため、飲料水などの残留については暫定的ではありますが、厚生労働省は水道水で、環境省は地下水などで50ng/Lという暫定目標値を設定しています。また、食品安全委員会では胎児への影響を調べた動物実験を主たる根拠にTDI(耐容一日摂取量)を20ng/kg体重/日と設定しました(令和6年6月現在)。これで、食品中への残留基準値設定への道筋が開かれたと言えます。

ちなみに、これに関連してよく巷で話題になるフライパンのコーティングに使われているPTFEについては、PFASの一種ではありますがはがれたものが食品に混入してもその化学的安定性から分解されて吸収されることはなく、毒性はないと言われています。ただし、過熱状態(360℃超)になると有害な蒸気が発生することがあるので、注意は必要です。
閑話休題。
では、下水汚泥を堆肥化するなどして農地で利用する際に、PFASの基準値等の設定はどうなっているのでしょうか。令和6年4月に農水省から発表された「汚泥肥料中のPFOS及びPFOAについて(令和6年6月更新・pdf)」では、明確な基準値は設定されていませんが、全国の事業所等から収集したサンプルについて分析した結果、最大値を示した250μg/㎏を連年施用した農地でも先に取り上げたTDIの20ng/kg体重/日を超過することは考えにくいとしています。現時点では、土壌中でのPFASの動態や植物体への移行については知見が不足しており、TDIを用いた基準値の設定は難しいものと思われますが、将来的には重金属類と同じく基準値が設定される可能性はあります。
以上のことから、下水汚泥の農業での活用については、現時点ではPFASに関してはあまり神経質になる必要はないと思われますが、新しい知見が蓄積され、何か動きがある可能性もあり、今後も注視していきたいと思います。