アグリサイエンティストが行く

農業について思ったことを書いていきます。少しでも農業振興のお役に立てれば。

食塩を除草剤として使用する際のデメリットとは

ここ数日、ちょっと疲れ気味のがんちゃんです。

 

最近、生活の知恵的なものとして、また農薬を忌避する界隈などから食塩を除草剤として使用する話が(自分の観測範囲内では)ネットを中心に広がっているようです。

 

フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com)

 

食塩は普通に食品(調味料)として流通しているものですし、人体には必須の化合物なので、何でできているか分からない、草を枯らす物質である農薬の除草剤より安全で安心という心理はよくわかります。しかし、結局は植物を枯らしてしまうわけですから、度を過ぎれば良くないものである、ってことはわかりそうなものですけど…。

 

それはともかく、たとえADI(一日摂取許容量)が設定されていない食塩(塩化ナトリウム)と言えど、当然農薬登録はされておらず、特定防除資材にも指定されていませんので、「除草を目的として」農作物を栽培している農地に使用すれば農薬取締法に違反している可能性があります。ですので、ネット等で安易に食塩による除草を勧めることは法令違反を推奨していると取られても仕方ない行為なのです。

 

 

さて、法令の話等はいったん脇にどけておいても、なお食塩は除草剤として使うには不適切だと思います。その理由を以下に述べようと思います。

 

まず、食塩を土壌に施用すると何故植物が枯れるのでしょうか。それは、次のような理由によるものです。まず、塩化ナトリウムが土壌水分や空気中の湿気で溶けて土壌養液中に移行することで水溶性物質が増え、浸透圧が上昇します。浸透圧とは、濃度の違う水溶液を半透性膜(水などの溶媒のみを通し、溶けている物質は通さないもの)で2つに分けられた容器の両側に入れると、濃度の薄い方から濃い方に水が移動し、両側の濃度が同じ平衡状態になろうとする現象です。この時、濃度の濃い方の液体は低い方に比べて液面が高くなります。これは、水以外の溶媒でも同じです。

食塩を土壌に施用することで浸透圧の上昇が起こり、植物体中の水分が土壌養液の方へ移動する力が働き、植物が根から水分を吸えなくなることで枯れてしまうわけです。しかし、この方法では雑草も枯れますが、作物も枯れてしまいますね。

 

じゃあ、雑草だけ枯らして、しばらく待ってから作物を植えるのはどうでしょう。食塩は水に溶けるのだから、雨が降ったら安全になるのでは?確かにその通りですが、雑草が枯れてしまうほど食塩を撒いた後ではそう簡単に抜けてくれるものではありません。その畑の排水性や土質にもよりますが、かなりの降水量がないとなかなか作物の生育に障害がない濃度まで下がるとは思えません。

 

食塩を撒いた土壌が、作物の生育に害がないかどうかは、専用の機械があれば比較的簡単に調べることができます。それは、電気伝導度(EC=electric conductivity)の測定です。一定量の土壌を決められた比率の純水に入れてかき混ぜ、電極を差し込んで測定します。純水は絶縁体ですから、何も溶け込んでいないと電気は流れません。水溶性物質があると、イオンの働きで電気が流れるようになり、どのくらい電気が流れるかで水溶性物質のざっくりした合計量が分かります。これで、土壌中に残っている食塩の量が、植物に害を及ぼすかどうか知ることができます。あくまで害を及ぼすかどうかが分かるだけで、どのくらいの量かは正確には分かりません。

また、食塩は水に溶けるとはいっても、水でかけ流すには限界があります。というのも、土壌粒子やそれと共存している腐植物質は-(マイナス)に帯電しており、食塩の主成分である塩化ナトリウムが水に溶けて出来るナトリウムイオンは陽イオンなので+(プラス)に帯電しているため土壌粒子や腐植物質にくっついてしまい、水に流されにくくなるのです。ナトリウムは、植物の必須元素ではありませんし、根の細胞壁でカルシウムの働きを阻害し、細胞壁が弱くなると言われているため、そういった意味からもナトリウムの蓄積は植物栽培にとって有害なものであると言えます。詳しくは、以下のリンクをご覧ください。

jspp.org



海沿いの農耕地に高潮などで海水が流入すると、作物の生育が阻害され、まともに栽培ができる状態に戻すのに時間と手間がかかるのはこういった理由からです。

 

さて、それでは海水が流入して作物の栽培に影響が出ることを塩害と言いますが、塩害からの農地の回復にはどのような技術的解決策があるのでしょうか。

 

基本的には、農地に真水を入れ、できればトラクターでかき混ぜて(水稲における代掻きのような作業です)表面水を流す、という手法が取られます。これで、栽培に影響がなくなったかどうかをECの測定によって判断し、十分に下がっていなければまた水を入れてかけ流すというのを繰り返します。先程ナトリウムは流れにくいと言いましたが、全く流れないわけでもないので、このかけ流しだけで解決することも多いのです。

 

それでも、ナトリウムが流れていないと思われる場合はどうしたらいいのでしょうか。ナトリウムの残留については、ECだけでは判断できませんが、土壌の化学分析を行った結果、ナトリウムの数値が高ければ石灰質資材(カルシウム)を施用することで、カルシウムも陽イオンですので、カルシウムイオンが土壌粒子にくっつこうとする力を利用してナトリウムを引っぺがし(置換すると言います)、水で流してしまうという手法を使います。土壌pH(酸度)を測定し、低ければ炭酸石灰などを、高ければ石膏(硫酸石灰)を使います。炭酸石灰はpHが高ければ(アルカリ性)溶けにくく、土壌pHを更に上昇させます。石膏は土壌pHが高い状態であれば少し下げ、その上でナトリウムを流す効果もえられます。


食塩のもう一方の構成元素である塩素は陰イオン(-)ですから、土壌粒子などにはくっつくことはなく、水に流されていきます。

 

以上、農地の除草に食塩を使うことの問題についてお話しさせていただきました。法令に違反している可能性があること、その後の栽培に影響があることを十分に理解できれば、除草に食塩など使うものではないとお分かりいただけたと思います。