ここ連日の猛暑にやられたか、少々体調が思わしくないがんちゃんです。

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昨年の話になりますが、私の職場の関係機関にとある業者が「石膏」を土壌改良資材として売り込みに来たらしい。いわく、近年の水稲栽培には無硫酸根肥料を使わない場合が増えており、硫黄を含まないため硫黄欠乏症が頻発している。このため、土壌の石灰分の供給には一般的な苦土石灰などではなく、硫酸カルシウムが主成分の石膏を使うべきである、ということでした。

なぜ水稲に無硫酸根肥料を使うことが増えているのでしょうか。もともと日本は火山国であり、ほとんどの地域で土壌のベースとなっている鉱物は火成岩由来です。火成岩が風化してできたものですから、必然的に硫黄が含まれています。ですから、比較的多量に必要な必須元素である硫黄ですが、通常は硫黄は肥料として供給する必要はなく、よくある土耕栽培では肥料として硫黄を施用することはあまりありません。
ですが、植物の三大栄養素である窒素の供給源としてよく使われるものの一つに硫安があります。成分名で言うと硫酸アンモニウムですので、化学式は(NH4)2SO4となり、硫黄を含むわけです。高度化成やBB肥料(各成分が独立した粒状のまま混合された肥料)などでよく使われています。
つまり、硫安などを含む化成肥料を使用すると、もともと土壌中にあるものと肥料に含まれるもので、土壌条件によっては硫黄が過剰供給になる場合があるわけです。
水稲には秋落ちという現象があり、初期生育は良かったのに穂を形成し始める時期から生育が落ち、収量が上がらないというものですが、この原因の一つに硫黄があります。水稲は湛水状態が長い作物ですから、土壌の中が還元状態(貧酸素)になり、硫黄が多いと硫化水素が発生して根傷みが起こり、秋落ち現象が起こることになります。
この秋落ちを防ぐために、硫黄の濃度抑制を目的として硫酸根(イオン)を含まない肥料を施用する動きが各地で起こっているわけです。
しかし、これが行き過ぎるといかに火成岩由来の土壌とはいえ、植物に必要な硫黄分が不足してきます。そこで、土壌のカルシウム供給資材として硫酸カルシウムである石膏を使うと硫黄の供給になるうえ、カルシウムも溶けやすい形態のため、水稲の生育が良くなる、というわけです。しかも、石膏資材を持ち込んできた業者は植物に吸収しやすい形態の鉄イオンも含んでいるため、より理想的な資材である、との主張でした。
それについては間違ってはいませんが、無硫酸根肥料を推奨して硫黄の欠乏症が出るほどの事態になったのなら以前の施肥体系に戻し、秋落ち対策として鉄分を含む土壌改良資材を施用すれば問題ないのでは、とも思います。鉄資材を施用すると秋落ちが防止できるのは、硫化水素と遊離酸化鉄が結合すると、不溶性の硫化鉄になり、植物に無害になるからです。
とはいえ、地域全体として無硫酸根肥料による栽培に取り組んでいる場合、一部だけ違い肥料に変えるのは難しいということもあると思います。そういう時は調子の悪い水田だけ石膏を施用するという対策はありかもしれませんね。

ともあれ、本来の土壌改良資材としての石膏は、土壌pHが適正か高いのに石灰(カルシウム)が不足している土壌であったり、海水の流入によってナトリウムが土壌粒子と結合して多量に残留し、障害が起きている場合に使用されるものです。硫黄不足の土壌に使うかどうかは場合による、というところでしょうか。
ちなみに、ナトリウム過剰の土壌に石膏を施用するのがなぜ有効か、ということについても説明しておきましょう。ナトリウムが多い土壌では、そもそも植物に過剰障害が起きるほか、pHの上昇による障害もあります。pHが高い場合は石膏はそれを少し下げる作用があり、また石膏に含まれるカルシウムが土壌粒子と結合しているナトリウムを引きはがし、代わりにカルシウムが土壌粒子に結合し、土壌を健全な状態に戻すのです。
石膏の土壌改良資材としての役割については、以上でご理解いただけたでしょうか。いずれにしても、業者が売り込みに来た関係機関の所在地である香川県は、従来の施肥設計と鉄資材の組み合わせで秋落ちの発生を防止する方策を取っており、無硫酸根肥料の施用は推奨していないとのことでした。
とはいえ、石膏も使い道を間違えなければ、非常に優れた土壌改良資材であると思います。他の肥料や資材も合わせて、正しい使い方で環境にも植物にも優しい農業を実現したいものですね。