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化学合成肥料(化成肥料)で土が死ぬ、とは? いえ、それだけでは死にません

フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com)

長時間パソコンを使っていると、白内障の影響なのか特に右目が霞んでしんどいがんちゃんです。

ネットで色々調べ物をしていて、有機農家を名乗る方が化成肥料は危険なのでやめました、という趣旨のブログを書いているものを見つけました。面倒ごとが苦手なのでリンクは貼りませんが、一応それに対するカウンターを書いておこうと思います。

 

以前、「化学肥料、何が問題なのか」というエントリーを書いたことがあります。10年以上前に書いたもので、それからたくさんの経験をしてきたので、それらを踏まえてアップデートもかねて、という気持ちもあります。

agriscientist.hatenablog.jp



まず、そちらでは化成肥料を使うと土が死ぬ、と主張されています。その方の経験から、ふかふかの土が化成肥料だとざらざらになるというのです。しかしこれは、最大限良い方向に解釈しても、主張のベクトルが全く違う方向を向いているとしか言い様がありません。

 

たしかに、田畑に「化成肥料しか」やらない、となると土壌中の有機物は微生物の分解に従って減っていきますので、極端に言えば土壌が鉱物粒子だけになり、耕してもざらざらで乾けば固くなり、水を通しにくい土壌になります。

(追記)

また、有機質が土壌中からなくなってしまうと、ほとんどの土壌(微)生物は生存不可能になりますから、生物的にも貧相な状態になってしまいます(生物性の悪化と言います)。

 

しかし、有機質肥料であっても、肥料だけしかやらない状態であれば、ほとんどの場合土壌中の有機物量は不足し、ふかふかな良い土にはなりません。ふかふかで(土壌物理性が良い状態です)、肥料の持ちが良い(保肥力が高い)状態にするには、有機質「肥料」だけでは土壌中にある腐植(と呼ばれる有機質)は十分な量を確保できるとは言えません。

 

ここで考えられるのは、有機質肥料でないと土の状態が悪くなるという主張をされている方は、「有機質肥料」と「たい肥」を混同されているか、区別できていないのではないか、ということです。

 

ここで、たい肥と有機質肥料の違いについて少しお話しておきましょう。

 

どちらも、有機質の農業用資材という点では違いがありませんが、使用目的が違います。

 

たい肥は、家畜ふんや樹皮、わらなどを原料としてそれぞれ単独あるいは混合して堆積し、植物の生育に障害が出ない状態まで発酵させたものです。養分も含みますが、使用目的としては主として土壌物理性の改良です。つまり田や畑を、ふかふかで空気や水を通しやすい土にするということですね。

 

それに対して有機質肥料はもちろん腐植も含みますので土壌改良効果もありますが、主として植物へ養分を供給することが目的となります。

 

ここまでの説明で、もうお分かりの方も多いと思いますが、有機質肥料と化成肥料は対立する概念ではなく、使い方や目的が違うだけということです。

 

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化成肥料のメリットは、養分となる成分含量が高く、田畑に散布する量が少なくて済み、労力の軽減につながること、また、一部を除いて容易に溶け、効果の発現が早くなります。

 

逆に化成肥料のデメリットは、有機質を含まないため化成肥料だけだと土壌中の腐植がどんどん減っていき、土壌物理性や土壌微生物に対する環境の悪化などを引き起こすこと、成分含量の高さからやりすぎになりやすく、環境への流出も増えてしまいやすいということです。

 

有機質肥料のメリットとしては、ほとんどの場合肥効が緩やかで環境への流出が少なく、効率的な肥効が期待できること、有機質を含んでいるため土壌への腐植の供給が期待できることなどがあります。

 

有機質肥料のデメリットは、肥効が緩やかなので追肥などとしてすぐ効かせたいときに間に合わないこと、成分含量が少ないため散布作業が大変になること、理想的な成分バランスにしにくいことなどです。

 

つまり、どちらが良い悪いではなく、栽培の状況などに応じて使い分けることが大事、ということですね。そして、化成肥料だけでは土の状態が心配だというのなら、たい肥を併用して土づくりを進めれば何の問題もありません。

 

さて、冒頭で言及した有機農家さんのブログですが、そのほか化成肥料は植物が養分を吸収して残ったものが植物や人体などにとって有害なものである、ということもおっしゃっていました。

 

しかし、化成肥料は例えば窒素源としては塩化アンモニウムや硫酸アンモニウム硝酸アンモニウムなどが多く、アンモニアや硝酸がまず植物に吸収され、塩素や硫酸根などが土壌中に残り、塩素は大量だと植物に悪影響がありますが、水で流されやすく、また肥料から供給される量では全く問題は起こりません。海の近くの田畑だと塩害が問題になりますが、それとは比較にならない量でしかありません。また、硫酸根は自然界中にいくらでも存在する硫黄と酸素が結合したものですし、硫黄は植物の必須元素ですからほとんど問題はありません。

 

カリウム源としては塩化カリウム、硫酸カリウム、炭酸カリウム、リン酸源としてはリン酸カルシウムが多く、これもどちらも問題ない成分ですよね。いったい何が有害なのでしょうか?その他いろんな養分がありますが、どれも問題になるとは思えません。

 

唯一、私が絶対の保証ができないとすれば、化成肥料は工業的に作られた化学製品の副産物である場合も多く、副成分として有害なものが含まれていないかというと、含まれていないとは言い切れないところです。とはいえ、化成肥料の歴史も始まって長く(100年以上)、その間(肥料としては)何の問題も起こっていませんから、ない、と言い切っちゃってもいいような気はします。

このあたり、水俣病の原因となった廃水を出していた会社が肥料会社であったことも影響しているかもしれませんが、今は有機水銀を含む方法で肥料を作っている会社はありません。

 

ともあれ、最初のほうで説明したとおり、田畑に一切の有機物を入れず、化成肥料だけで栽培していると土壌物理性が極端に悪化し、営利栽培は不可能、という状態になりかねませんが、たとえ養分供給を化成肥料だけにしたとしても、適切なたい肥の施用で土づくりをすれば問題はありません。というか、たい肥にも養分は含まれていますので、それを考慮しての養分バランスの調節は化成肥料のほうがやりやすいと思います。

 

というわけで、化成肥料と有機質肥料はその性質をよく理解し、状況に合わせて使い分ければいいというのが結論になると思います。そこへ、たい肥による土づくりとそれに伴う土壌診断を行えばより完璧に近づけるものと思います。