アグリサイエンティストが行く

農業について思ったことを書いていきます。少しでも農業振興のお役に立てれば。

化成肥料の環境負荷は有機質肥料に比べて高く、人体にも有害なのか?

昔の教え子に4年ぶりに再会して、元気そうな様子を見られたのがとってもうれしくて、少し上機嫌ながんちゃんです。

 

以前のエントリー「化学合成肥料(化成肥料)で土が死ぬ、とは? いえ、それだけでは死にません」につけていただいたコメントで、化成肥料の成分そのものは問題と思わないが、硝酸態窒素の残留や植物への蓄積により、人体などへの有害な影響があるといえるのではないか(筆者による要約)というご意見をいただきました。それに対し、コメント欄でもお返事させていただいていますが、新たな項目として書いてみたいと思います。

※写真は昨年10月の善入寺島

 

さて、そのエントリーで化成肥料は通常の使用量では土壌や作物、それを摂取する人間に対しても有害なものではないと書かせていただきました。また、化成肥料の問題点も①肥料成分が高濃度のためやりすぎになりやすいこと、②有機物を含まないため微生物が繁殖しにくくなること、③それに絡んで、化成肥料だけしか施用しないでいると土壌の物理性が悪化すること、などを挙げさせていただきました。

 

しかし、コメントをくださった方の主張を見てみると、化成肥料だと(土壌中に硝酸態窒素が多く生成され)植物体中に硝酸塩が蓄積し、残留しないように細かく細かく追肥を分施する方法は手間がかかりすぎて現実的ではないので、植物にも人体にも悪影響があり、化成肥料は有害な物質が残留するといえるのではとのことです。

 

しかし、有機質肥料でそういうことが起こらないかというと、必要量を超える肥料を施用すると、土壌中で硝酸態にまで分解され、そこに窒素があれば、植物は必要以上に吸収してしまうため結局植物体中に蓄積され、吸いきれなかった分は地下浸透し、そこに地下水があれば汚染してしまいます(もちろん化成肥料の方がこういうことは起こりやすいです)。

 

有機質肥料が化成肥料に対してこのことで有利な点は、化成肥料に比べて肥効が穏やかである、ということです。チッソ成分の主体が有機態ですから(もちろん硝酸やアンモニアも含みますが)、土壌に施用されてから微生物によって分解され、特に畑地ではタンパク質→アミノ酸アンモニア亜硝酸→硝酸と分解されていきますので、肥効がゆっくりになり、環境への流亡が少なくなる分減肥が可能です。また、分解途中のアミノ酸アンモニアも植物は窒素源として利用できるため、植物体内の硝酸態窒素量が少なくて済む、という利点もあります。ただし、この分解は土壌の微生物相や気温、水分に大きく左右されるため思ったような肥効が得られない場合もあります。

 

また、有機質肥料では必ずしも植物にとって理想的な栄養バランスではなく、様々な種類の肥料を組み合わせて施用することになりますが、そのコントロールは化成肥料の方が格段に簡単なのです。そこを理解せずに、やみくもに窒素量だけを充足するように施用していれば、栄養バランスの崩れで植物生育に悪影響が出ることもありますので、土壌中の栄養の偏りを「有害物質の蓄積」とみるのであれば、有機質肥料でも十分起こりえるわけです。

 

化成肥料だけを使っていても、適正量を少しずつ施用し、なお手間もそれほどかからないという方法もなくはありません。養液栽培では、薄い液肥を植物の成長に合わせ、濃度と潅水量をコントロールしながら少しずつ流し、点滴チューブを使用することで水量も最低限で済み、余分の肥料をかなり少なく抑えることができます。濃度や潅水量のコントロールはある程度機械に任せられるので、その部分に関しては手間もそれほどかかりません。

 

それから、化成でも緩効性の肥料は存在します。樹脂などのコーティングで肥料の溶ける速度を調節するもの、そもそもゆっくり溶けるもの、微生物の分解で肥効を示すものなど様々ですが、これもまた有機質肥料同様施用量を削減することができます。

 

このように、化成肥料、有機質肥料ともに利点や問題点があり、それぞれを目的や品目に合わせて使い分けることが大事なのです。どちらが良くてどちらが悪いの二元論ではなく、それを使う側の人間の問題なので、土づくりの堆肥も組み合わせて、食糧生産、安全、環境負荷のベストなバランスを目指すべきだ、と思っています。