アグリサイエンティストが行く

農業について思ったことを書いていきます。少しでも農業振興のお役に立てれば。

クレーム処理の是非

先日、我が県の消費生活担当部署に、県産イチゴについてのクレームがあった。一部のイチゴのパッケージにJAがバイヤーと相談して生産者の写真をシールとして貼るようにしたものがある。また、生産者名が箱に押印してあったり、シールとして(写真のものとは別に)張られている場合があるのだが、これが問題となったのである。

とある県外の消費者が一度頂き物としてもらったイチゴが良かったので、もう一度同じものを購入したいと思い、我が県に在住している知人に頼み、同じ生産者のイチゴを買おうとしたらしい。最初に買った商品に貼られていたシールはイチゴの温室内で生産者数名が写っているというものだが、そのイチゴ温室がたまたま高設(養液)栽培の温室だった。そこで、その消費者が購入を依頼した先の知人に聞いたところ、その生産者が土耕栽培(普通に地に植える栽培)だったことがわかった。ところが、その消費者は高設栽培の方が手の込んだ高級品で品質がよいものであるとの認識を持っていたようで、シールの写真とは違う、これは虚偽表示ではないかというクレームを付けてきたのだ。それで、県の方で事実関係を調査し、新聞発表しろと要求してきた。

担当部署では、とりあえず事実関係については調査しますと答えたが、匿名電話であった事から、調査はしたもののその後の進展はない状態である。その過程で、私が関係者に事情を聞いたり、問題となったシールを入手して担当部署に送ったりしたわけである。

しかし、そのシールの写真は、たまたま生産者代表が高設栽培で、その温室で撮影されたと言うだけであり、高設栽培であれば品質が良いというわけではない。高設栽培をブランドの条件にしているわけでもない。県の方では、色々と法律を参照してとりあえず問題はないが、消費者に誤解を与えないようJAを指導すると言う事で決着した。もしかしたら、次回からはそのシールに「この写真はイメージです」などの文言が入るかもしれない。

それにしても、たった一本の匿名電話からこういう事態に発展するとは思わなかった。もちろん、健康に悪影響のある表示違反や、不当に単価をつり上げるような意図的な虚偽表示なら厳しく対処すべきであるが、正直言って誤解に基づくクレームにここまでリソースを裂くのはいかがなものかと思う。こういう風にあらゆる事にクレームを付け、無駄にリソースを消費させる事が農作物の流通を阻害し、ひいては消費者自身の不利益に繋がるのではないかと思うのだが、それは私の役人としての傲慢な根性なのだろうか。