アグリサイエンティストが行く

農業について思ったことを書いていきます。少しでも農業振興のお役に立てれば。

種子法を廃止する法律案への付帯決議について

また家族(猫)が増えましたが、たまたままた黒猫になってしまったがんちゃんです。

新しい家族のポコさんと先住猫1号のコピさん、2号のミルさんです。

 

フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com)

主要農作物種子法、いわゆる種子法の廃止は様々な議論を呼び起こしました。種子法は、主要農作物(水稲、麦類、大豆など)の優良な種子の確保を各都道府県に義務付けるものですが、それによって国内でのそれらの種子生産が滞り、多国籍企業に日本の種子が支配されるのではとの懸念を表明される方が多数いらっしゃいました。

elaws.e-gov.go.jp

 

しかし、この法律は短いのでぜひ全文を読んでいただきたいのですが、隅から隅まで読んでも「国が後ろ盾になってやるから、都道府県は原原種及び原種の生産をきちんとしなさいよ、種子の確保についても責任をもって監督しなさいよ」と法的根拠を以て言っているにすぎず、メーカー等の参入を禁じているわけではありません。なので、多国籍企業が日本の種子を牛耳ろうと企んだとしたら、その際の防波堤になるかはきわめて頼りないものと言わざるを得ません。

 

可能性があるとすれば、種子法がある限り各都道府県が安価で品質のいい種苗の生産を行うからメーカー等のはいりこむ余地がない、という考え方くらいでしょうか。ちょっと根拠が弱そうですが…。加えて、種子法が廃止されたからと言って各都道府県がこれ幸いとそれぞれ優良種子の生産を取りやめるかというとそんなことは起こっていません。確認出来る限り令和5年度5月現在で33の自治体が独自条例を制定したり対応できるようなものにしていますし、それ以外でも東京都を除いて何らかの実施要項や要領などを設定して、品種開発や種子生産の事業を継続しています。

 

種子法が廃止になったのは平成30年4月です。種子法は、それを廃止する法律が同年4月1日に施行されることによって廃止されたわけです。その時、廃止法案に対する付帯決議がなされました。付帯決議とは、参議院のHPによると以下のように書かれています。

 

~引用開始~

法律案が可決された後、その法律案に対して附帯決議が付されることがあります。附帯決議とは、政府が法律を執行するに当たっての留意事項を示したものですが、実際には条文を修正するには至らなかったものの、これを附帯決議に盛り込むことにより、その後の運用に国会として注文を付けるといった態様のものもみられます。附帯決議には、政治的効果があるのみで、法的効力はありません。 こうして委員会で可決された法律案は、本会議に上程され同一会期に両院で可決されると、政府による公布手続を経て法律となります。

~引用終了~

 

それを踏まえて、種子法廃止法案の付帯決議(リンク先はpdf)がどのようなものだったか見ていきましょう。全文を引用します。

 

○附帯決議(平成二九年四月一三日)
主要農作物種子法は、昭和二十七年に制定されて以降、都道府県に原種・原原種の生
産、奨励品種指定のための検査等を義務付けることにより、我が国の基本的作物である
主要農作物(稲、大麦、はだか麦、小麦及び大豆)の種子の国内自給の確保及び食料安
全保障に多大な貢献をしてきたところである。
よって政府は、本法の施行に当たり、次の事項の実現に万全を期すべきである。
一 将来にわたって主要農作物の優良な品質の種子の流通を確保するため、種苗法に基
づき、主要農作物の種子の生産等について適切な基準を定め、運用すること。
二 主要農作物種子法の廃止に伴って都道府県の取組が後退することのないよう、都道
府県がこれまでの体制を生かして主要農作物の種子の生産及び普及に取り組むに当た
っては、その財政需要について、引き続き地方交付税措置を確保し、都道府県の財政
部局も含めた周知を徹底するよう努めること。
三 主要農作物の種子について、民間事業者が参入しやすい環境が整備されるよう、民
間事業者と都道府県等との連携を推進するとともに、主要農作物種子が、引き続き国
外に流出することなく適正な価格で国内で生産されるよう努めること。
四 消費者の多様な嗜好性、生産地の生産環境に対応した多様な種子の生産を確保する
こと。特に、長期的な観点から、消費者の利益、生産者の持続可能な経営を維持する
ため、特定の事業者による種子の独占によって弊害が生じることのないよう努めるこ
と。
右決議する。

 

法的拘束力がないため、この付帯決議が確実に履行されればという条件付きではありますが一応国は従来通り優良種苗の確保について、財政面も含めて都道府県を支援していく方針であることはわかります。


個人的には、特に都道府県は各県民等の声が直接届きやすく、国内情勢がよほど大きく変わらない限りはその求めに応じて現在の種苗生産体制を維持していくだろう、と現場を見ている限りそう思います。また、種子法廃止から5年経った今でも独自条例や要綱要領の制定など実務上はほとんど何も変わっていないと思いますし、実感として今後もこの体制が当分続いていくと思われます。

 

次回は、今回の付帯決議に続いて、改正種苗法施行時にも付帯決議が行われたので、そちらについてもお話ししてみたいと思います。