アグリサイエンティストが行く

農業について思ったことを書いていきます。少しでも農業振興のお役に立てれば。

令和8年7月に改正された種苗法について

ここ数日のあまりの暑さに、気象庁に文句言いに行こうか迷っているがんちゃんです(錯乱)。

 

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以前、種苗法について書いたのは比較的最近かと思っていたら、最初の記事は2020年5月のことでした。もう6年も前になるんですね…ちょっとびっくりです。

agriscientist.hatenablog.jp

 

その時の改正種苗法が施行されてから5年が経過し、さらに種苗に関する国際的な問題がまだまだ残されていること、気候変動に対応する品種の迅速な開発など現行の種苗法でも対応が十分とは言えない事態が増えてきました。そこで、農水省としては育成権者の権利を強化し、種苗の海外への持ち出し被害等を防ぎやすくする改正を行いました。

 

その概要については農水省の以下のページにわかりやすくまとめられています。
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/syubyouhou/attach/pdf/index-26.pdf

 

法律の全文は長くて読みにくいので、改正前後の新旧対照表にリンクを貼っておきます。
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/syubyouhou/attach/pdf/index-28.pdf


さて、それでは概要のページに沿って内容を解説してみたいと思います。

 

1 育成者権の存続期間の延長(第19条の2)
最近の育種目標としては、最近の気候に合わせた耐暑性の付与だけでなく収量性や品質も求められます。農作物はいかに暑さに強かろうと、まずは食味が良くなければ消費者に受け入れられず、近年各都道府県でのムーブメントであるブランド化ができません。また、ある程度の収量が確保できなければ、農家も利益を上げることができません。それら複数の性質を付与するためには、育成者にはじっくり腰を据えて高度な技術開発を行ってもらうのが有効な手段であると言えます。なので、育成者権を10年延長し、育成者の条件をより優位にしようというものです。

 

2 植物新品種の流出防止対策の強化
個人的にはこれが今回の目玉のように思えます。


1)    品種登録出願中の保護(第14条の2)
これは、出願までに時間がかかり、その間に海外に品種が流出していることを受け、出願中であっても種苗の流出の差し止めを求めることができる、というものですね。きわめて当たり前の、必要な条文です。登録ができたものの、すでに海外で販売されていた、では目も当てられません。


2)    種苗の輸出目的の保管の制限(第21条第2項、第21条の2第1項)
海外に持ち出す目的で保管することにも制限をかける、というものです。育成権者の目の及ばないところで保管され、持ち出されてしまったのではかないません。輸出用の倉庫に持ち込まれただけでストップできる、というのは、このくらいやらないと止められないということでしょうね。


3)    育成者権侵害に対する訴訟上の救済の強化(第34条、第35条の3)
まず、34条の損害額の算定について、パンフレットには「育成者権者の損害額(許諾料相当額)の算定の際に、侵害があったことを前提として通常の許諾料相当額よりも高い額とすることができることとする」と書いてありますが、よくわからないので法律の本文を読んでみました。…猶更わかりません(爆)。普通に許諾して譲渡すればもらえたはずの金額よりも高めに算定できる、ということでしょうか…?
次に、35条の3です。これは、今までは登録品種の侵害があったときは、その立証責任は育成者権者から侵害者に移す、つまり、侵害者が、自分は育成者権者の権利を侵害していないと証明しなければならないと言うわけで、きわめてまっとうな変更ですね。


4)    外国からの登録品種の種苗等の逆輸入の制限(第21条第2項)
国外で譲渡された登録品種でも、育成者権がなくならず、それを再度国内へ持ち込む逆輸入でも育成者権者の効力が及ぶ問うことを明確に示したということのようです。当たり前のように思えますが、明文化されたことでより扱いがわかりやすくなったということでしょうか。


5)    種苗の貸渡し(リース)に関する保護の強化(第2条第5項)
譲渡でなく、貸すだけでも育成者権者がストップをかけられるということのようです。貸している間に増殖されて国外へ持ち出される、というのを防ぐのが目的?

 

3 その他
1)    早期に実用化する必要性が高い出願品種について優先して品種登録出願の審査をできることとする(第15条の2)
おそらく、開発が急がれる暑熱対策としての品種等について、先行して現地での栽培を始めたい場合などを想定していると思います。
2)    特許法に倣い、紛争の解決のために裁判所が広く一般から意見を募集できる制度を創設する(第37条の2)
調べてみると、特許法には特許侵害訴訟などにおいて第三者意見募集制度というものがあり、世間などからはどう見えているのかということを調べ、判断の参考にする制度のようです。特許法と種苗法は開発者の権利を守るという意味でよく似た部分がありますので、これまでの経緯から必要だと判断されたのだと思います。
3)    登録品種の名称使用義務違反に係る過料を引き上げる(現行10万円を20万円に引き上げ)(第75条)
登録品種を譲渡・貸出する場合には、登録された名称を使用する義務がありますが、これに違反した場合の過料を引き上げるようです。名前を偽ったりして販売しちゃダメよ、というのは以前からでしたが、より厳しくなったということですね。

 

以上、自分でもしっかり理解できたかというとあまり自信はありません。しかし、どう考えてもこれは育成者の利益、ひいては日本国内の農業者の利益を守るための法律であり、必要なものであることはわかると思います。

 

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これに反対する人がいる、というのは本当に信じられないところですが、どうも放射線育種などに反対したり、過激な自然派農法?の人たちとかぶっているように個人的には思います。反対するならするで、育成者がしっかり利益を出せ、自分たちの主張とも矛盾のない法案を作って提示してほしいものです。一部を取り上げて、またほとんどあり得ない不安をあおって反対と叫ぶだけでは、まともな人からの支持は得られないと思います。

 

農業仲間によってアスパラガスに除草剤が撒かれた事件について

職場の綺麗な(私から見て)お姉さんに「がんさん、鍛えてるでしょ?そういう体つきしてますよ?」と言われ、ご機嫌ながんちゃんです。

 

先日、Twitter(現X)に「ハウス9棟のアスパラガスが突然枯れる 除草剤入れたか 農
業仲間を逮捕
」というニュースが流れてきました。これには、いろいろな意味で非常に驚き、同時に非常に腹が立ったものです。


まず、びっくりしたのは犯人の他の農家への敬意のなさです。たとえ対立していて、いい感情を持っていなくても、普通はここまで憎悪を抱くことはないでしょう。これは、農家に限らず、一般的な人の感情としてもそう思います。

 

それから、あまりにも浅慮が過ぎるということ。やられた方は大損ですが、やった方には何の得もありません。嫌いな相手が困っている様子を見て、多少溜飲が下がるかもしれませんが、それで自分の収入が上がるわけでもなく、周りからの評価がよくなるわけでもありません。むしろ、「あの産地の農作物は危ない」という風評被害が広がったり、取引先との信頼関係を損ねかねず、産地全体でアスパラガスの単価が下落するかもしれません。


加えて、こういうやり方だと事情を知っている人間の犯行だと容易に想像がつきますので、犯行が明るみに出る可能性も高いでしょう(実際逮捕されたわけですが)。


次に、技術的な面で驚いた点ですが、アスパラガスという植物は地下茎が発達しており、沖縄などを除けば日本では冬には地上部は枯れてしまいます。春になり平均気温が10℃を超えると萌芽が始まり、15℃を超えるくらいから収穫が本格化してきます。栄養分を吸収する細い根は地表から30~50cmの深さまでに多く発達していますが、貯蔵根と呼ばれる太い根は80~100㎝の深さまで発達することがあり、長い間水やりを控えてもなかなか枯れることはありません。


それをすべて枯らせるわけですから、使った除草剤も浸透移行性(有効成分が葉などから吸収され、植物全体にいきわたる性質)のあるものを使い、さらに濃度も高かったのではないでしょうか。犯行にも相当費用が掛かっているように思えますが、もしかしたら農業用ではない価格の安いものを使ったのかもしれません。もしそうであれば、被害農家の受けた損害に比べれば小さな問題かもしれませんが、農薬取締法的にも悪質なものであると思われます。

 

ともあれ、被害を受けた農家さんが一日も早く、精神的にも経営面からも立ち直れることを祈るしかありません。Twitterでは、アスパラガスはまともに採れるようになるまで、定植から3年はかかるという意見がありましたが、やり方によっては最短10カ月でもそれなりには採れるようになります。もちろん、収穫量が最大になるには3年はかかりますが、そこは悲観するほどではないと思います。


ただ、犯行に使われた除草剤が何かわからないので、残留の問題があること(長期間残留する農地外用除草剤であればいろいろ難しいことになるかも)、アスパラガスはアレロパシー(他感作用・忌地現象)が強く、生のまますきこんでしまうと、次に新しく植えた苗が枯れてしまうため、そちらも除去する必要があることなどからそのまま耕転してすぐに定植にかかることは難しいでしょう。


そうこうしているうちに被害農家さんの心が折れてしまわないように、行政やJAには金銭的、精神的、技術的なフォローをお願いしたいところです。

 

国民民主党の市議会議員がX(Twitter)でEMを取り上げた件について

最近、左掌の痛みが悩みのがんちゃんです(バイク乗りにくい)。

 

先日、国民民主党のひちわ真理子八千代市議会議員がX(Twitter)でEM菌を肯定的に見える表現で取り上げた件で炎上していました。当該発言は、次のようなものになります。

 

 

EM菌の効果云々以前に、ちょっと意味不明ですね。ともあれ、この発言だけを見るとEM菌を肯定的にみていると思われても仕方ありません。EM菌は、土壌改良資材としてみればその中身はそれほど悪いものとは思えません。ですが、各都道府県などの試験結果等を見る限り、他の競合商品に比べて優れているとは言い難いのも事実です。

 

それでも、土壌改良資材として使う分には一応許容範囲だといえますが、放射能や電磁波を防ぐ、から始まってともかく使う人にとって悪いものはすべて防げると言われるとさすがにそれはニセ化学であり、許容できるものではありません。

 

以前、福島県の放射性物質除去・低減技術実証試験事業の問題点についてという記事で、EM菌の開発者がEM菌による放射性物質の除去に関する根拠として提示していたデータについて検証していますので、参考までにご覧いただけると幸いです。

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さて、竹炭は播く前にEM菌などに浸しておくと良い、竹炭の穴による土中の養分吸着を防ぐというのは、好意的に解釈するとあり得ない話ではありません。EM菌に直接浸すことはできませんので、EM菌を培養した液体ということだろうと思います。何らかの有機物を添加した液体にEM菌を加え、適温で培養すると有機酸等が生成され、有機酸の水素イオンが竹炭に吸着されることで、他の陽イオンである塩基類やアンモニウムイオンが竹炭に吸着されることをある程度防ぐことはできると思います。

 

しかし、竹炭などの炭系資材を土壌に施用する目的の一つとしては、塩基類を一時吸着することによる保肥力の向上というものもあると思いますので、そういったEM菌に浸す、という行為の意味はあまりないと思います。たとえ土壌中の塩基類が吸着されたところで、それを植物が必要とした場合、少しずつではありますが、植物の根は引っぺがして吸収する能力があるのです。

 

なので、そういった意味からもこの発言については、ひちわ氏の勉強不足と言わざるを得ないと考えます。

 

その後、ひちわ氏はこの炎上発言について釈明のポストもされています。

 

EM菌と液肥を混同する、というのは少々苦しい言い訳に見えます。好意的に解釈すれば、その辺の用語をほとんど理解できていなかったのでしょう。

 

そこで、私からの提案ですが、八千代市は千葉県のようですから、地元千葉県の農林総合研究センターや農業革新支援センターに問い合わせれば、必ず土壌肥料の専門家がいらっしゃいますので、お願いしてレクチャーしていただくのはどうでしょうか。かなり勉強になると思います。

 

最後に、気が滅入ることが多いと思いますので、うちの猫でも見ていってください。

 

江戸時代の農業を考える 続編・環境保全型農業の推進について

桜の季節になり、次の休日はどこへ見に行くか、ウキウキしているがんちゃんです。

 

もう15年も前に、「江戸時代の農業を考える」という記事を書きました。今読んでも悪くないなと感じられる内容ですが、データとかの提示がなく、やや雑な議論になっているなとは思います。

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白川郷の茅葺き屋根の合掌造り家屋と池がある風景

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で、この記事を書いたときは時は江戸時代の人口が約3000万人に制限されている理由の一つとして窒素量がその要因になっていると述べていますが、その根拠となる資料が見つけられず、提示できずにいました。この度、久しぶりに見つけることができたのでそんな昔の記事ではありますが、補足してみたいと思います。

 

その根拠となるのは、以下の論文です。
窒素循環から持続可能な社会を考える-江戸時代の食料生産と水質- 川島 博之
川島博之氏はもともとは農業の専門家というわけではなかったようで、現在の肩書も開発経済学者でビングループ主席経済顧問ですが、元農水省農業環境技術研究所主任研究官や東大大学院農学生命科学研究科准教授などを歴任されています。

 

この論文では、明治初期の農林統計から江戸時代の農業の規模を推測し、農地での窒素の循環だけでなく、周辺環境からの窒素源の収集を非常に効率よく行っていたのでは、としています。そのうえで、それによって確保できる窒素量が制限となって農地がそれ以上拡大できず、それが人口の制限要因になっていたというわけです。面積を拡大したとしても、それによって単位当たりの窒素投入量が減少し、単収の低下によって拡大に伴った収量増が見込めないわけですね。つまり、手間だけが増えて収量が増えないジレンマに陥るわけです。

 

集まった家族のイラスト(アジア人)

さらに、自分の考えで捕捉すると江戸時代の人口と今の人口は単純に数字だけで比較することはできないと思います。江戸時代は、幼児や若年層の死亡率が今よりずっと高く、人口ピラミッドはすそ野の広いピラミッド型で、若いうちからたくさん人が死んで、どんどん産まれてそれを補っていたような状況ですから、1人当たりの摂取量も違っていたのではないでしょうか。とはいえ、小さい子供が多かったので、少なくて済んでいたのか、若年層が多かったので、より多くの摂取量が必要だったのか、ちょっと難しいところですね。

 

というわけで、現代日本で、どんなに効率よく循環させても、窒素の量が物理的な制限要因となって人口は3千万人前後となるでしょう。もちろん、農作物の品種改良は進んでいますし、技術の向上によって肥料成分の利用効率も向上していますから、多少は増えるかもしれませんが、それでも物質としての窒素量が制限要因となっているわけですから、いくらでも増やせるとは言えないでしょう。

 

ですから、食料品だけでなく、エネルギーや肥料(とその原料)が国外から全く入ってこなくなれば、完全な循環型農業が実現できたとしても、日本の国土では3千万人が食べていける限界、と言っていいと思います。そういう一面から見ると、日本は国土に対して人口が増えすぎているということですね。

 

有機農業などを含む循環型農業の推進は、こういったことに留意しながら、食の安全保障も考慮して進めていくべきなのだと思います。

 

化成肥料の環境負荷は有機質肥料に比べて高く、人体にも有害なのか?

昔の教え子に4年ぶりに再会して、元気そうな様子を見られたのがとってもうれしくて、少し上機嫌ながんちゃんです。

 

以前のエントリー「化学合成肥料(化成肥料)で土が死ぬ、とは? いえ、それだけでは死にません」につけていただいたコメントで、化成肥料の成分そのものは問題と思わないが、硝酸態窒素の残留や植物への蓄積により、人体などへの有害な影響があるといえるのではないか(筆者による要約)というご意見をいただきました。それに対し、コメント欄でもお返事させていただいていますが、新たな項目として書いてみたいと思います。

※写真は昨年10月の善入寺島

 

さて、そのエントリーで化成肥料は通常の使用量では土壌や作物、それを摂取する人間に対しても有害なものではないと書かせていただきました。また、化成肥料の問題点も①肥料成分が高濃度のためやりすぎになりやすいこと、②有機物を含まないため微生物が繁殖しにくくなること、③それに絡んで、化成肥料だけしか施用しないでいると土壌の物理性が悪化すること、などを挙げさせていただきました。

 

しかし、コメントをくださった方の主張を見てみると、化成肥料だと(土壌中に硝酸態窒素が多く生成され)植物体中に硝酸塩が蓄積し、残留しないように細かく細かく追肥を分施する方法は手間がかかりすぎて現実的ではないので、植物にも人体にも悪影響があり、化成肥料は有害な物質が残留するといえるのではとのことです。

 

しかし、有機質肥料でそういうことが起こらないかというと、必要量を超える肥料を施用すると、土壌中で硝酸態にまで分解され、そこに窒素があれば、植物は必要以上に吸収してしまうため結局植物体中に蓄積され、吸いきれなかった分は地下浸透し、そこに地下水があれば汚染してしまいます(もちろん化成肥料の方がこういうことは起こりやすいです)。

 

有機質肥料が化成肥料に対してこのことで有利な点は、化成肥料に比べて肥効が穏やかである、ということです。チッソ成分の主体が有機態ですから(もちろん硝酸やアンモニアも含みますが)、土壌に施用されてから微生物によって分解され、特に畑地ではタンパク質→アミノ酸アンモニア亜硝酸→硝酸と分解されていきますので、肥効がゆっくりになり、環境への流亡が少なくなる分減肥が可能です。また、分解途中のアミノ酸アンモニアも植物は窒素源として利用できるため、植物体内の硝酸態窒素量が少なくて済む、という利点もあります。ただし、この分解は土壌の微生物相や気温、水分に大きく左右されるため思ったような肥効が得られない場合もあります。

 

また、有機質肥料では必ずしも植物にとって理想的な栄養バランスではなく、様々な種類の肥料を組み合わせて施用することになりますが、そのコントロールは化成肥料の方が格段に簡単なのです。そこを理解せずに、やみくもに窒素量だけを充足するように施用していれば、栄養バランスの崩れで植物生育に悪影響が出ることもありますので、土壌中の栄養の偏りを「有害物質の蓄積」とみるのであれば、有機質肥料でも十分起こりえるわけです。

 

化成肥料だけを使っていても、適正量を少しずつ施用し、なお手間もそれほどかからないという方法もなくはありません。養液栽培では、薄い液肥を植物の成長に合わせ、濃度と潅水量をコントロールしながら少しずつ流し、点滴チューブを使用することで水量も最低限で済み、余分の肥料をかなり少なく抑えることができます。濃度や潅水量のコントロールはある程度機械に任せられるので、その部分に関しては手間もそれほどかかりません。

 

それから、化成でも緩効性の肥料は存在します。樹脂などのコーティングで肥料の溶ける速度を調節するもの、そもそもゆっくり溶けるもの、微生物の分解で肥効を示すものなど様々ですが、これもまた有機質肥料同様施用量を削減することができます。

 

このように、化成肥料、有機質肥料ともに利点や問題点があり、それぞれを目的や品目に合わせて使い分けることが大事なのです。どちらが良くてどちらが悪いの二元論ではなく、それを使う側の人間の問題なので、土づくりの堆肥も組み合わせて、食糧生産、安全、環境負荷のベストなバランスを目指すべきだ、と思っています。

 

以前の記事「化学合成肥料(化成肥料)で土が死ぬ、とは?」についたはてブへの返信

仕事納めの日が持病の通院日になり、年末年始休暇が一日早まったおかげで10連休となってしまったがんちゃんです。仕事始めの日が怖い…(;゚ロ゚)

 

 今年の10月にアップしたエントリー、「化学合成肥料(化成肥料)で土が死ぬ、とは? いえ、それだけでは死にません」

は自分にしてはたくさんのブックマークをいただき、コメントもそれなりにいただきました。で、ブックマークのコメントではすべてに返信することは難しいので、新たな試みとして、新規記事を起こし、ひとつずつ返信していきたいと思います。コメントをくださった方々に届くかは難しいかも、ですが…このやり方を続けるかも今後検討します。

agriscientist.hatenablog.jp

 

 

それでは、それぞれのコメントを引用して、それに対する返信をつける、という形でやっていきます。コメントは太字にしてあります。

 

 the_sun_also_risesさん

肥料と堆肥が違う役割を持つのは素人でも少し園芸をすればすぐに理解できる。有機農家を名乗ってそんな素人以下の主張をしてしまうのはなりすましだろうね。有機農業界隈はこういう非科学的な魑魅魍魎がたむろしてる

 

そうですね、その可能性もあると思います。有機農家さんはそのあたり、わかってやっていらっしゃる方も多いですが、宗教に近い妄信でやっておられる方もいらっしゃいますので、もしかしたら営利栽培の有機農家である可能性も捨てきれません。

 

さん

化成肥料ってはようはビタミン剤、ビタミン剤だけで良い身体を作れるわけがない

 

若干違います。微量要素も含めて必須元素をバランスよくすべて与えることができれば、化成肥料だけでも健全な植物体にすることができます。水耕栽培とか、養液栽培がそうですね。ただ、普通の土耕栽培だと土壌の物理性、必須元素以外の化学性も大きくかかわってくるので、堆肥などの有機質資材を使った土づくりが大きな役割を果たすんです。

 

gntaさん

菌根菌を育てないと農作物の生育も病害耐性も土壌の物理性も悪くなる。化成肥料はよく効くが菌根菌は過剰な養分に弱いので減っていき農作物の生育は悪くなり土壌の物理性も悪化する。安易な化成肥料頼りは危険

 

菌根菌は土壌中で植物の生育に大きくかかわる糸状菌ですが、病害耐性については間接的な関わりで、土壌物理性についてはほとんど関係ありません。植物の根に入り込んで共生し、土壌養分の吸収効率を向上させる役割の菌です。植物細胞から糖の供給を受け、そのエネルギーを使って土壌養分を吸収し、植物に供給します。特に、リン酸の吸収効率が向上します。それから、養分過剰で育ちにくい、というのはその通りです。

土壌物理性には、糸状菌、放線菌、細菌など多種の微生物が関わっています。

 

さん

家で水耕栽培(レタス、バジル、ほうれん草、ミニトマト)してるけど、味に違いはない(笑)コスト度外視なら土いらんて。

 

そうですね、ちょっと前のコメントへの返信でも書いていますが、必須元素がバランスよくすべて含まれていれば、問題なく育ちます。大規模な水耕になると、根への酸素供給が問題になることはありますが。

 

Eiichiroさん

家庭菜園レベルだと、農薬も化学肥料も扱いが難しいから、たい肥ぶち込むぐらいが丁度良くなっちゃんだよね。施肥計算してないから、うまくいくかどうかは運次第。鮮度が良いから美味しいけど。

 

ちょうど良くなる、というか家庭菜園では最大収量を目指すわけではないので、後半で言及されているように過不足共に特に問題ないレベルの施肥になっちゃうというだけのことですね。

 

t-satさん

今まで漠然とした比喩として受け取っていた「土地が痩せる」という言葉の意味を知った

 

そこをご理解いただけたなら何よりです。

 

chintaro3さん

化学肥料は少量で効く代わりに、量の加減がとても難しい。十分な化学の知識が無い人は、化学肥料を使い過ぎて失敗しがちではある。

 

化成肥料の問題点の一つはまさにそこです。なので、「勘」だけでやっちゃうと一作くらいはできても、繰り返し栽培していると、だんだん蓄積や不足が出てきて問題になってくるわけです。

 

kurekurechanさん

保肥性がないと折角の化学肥料も流亡して勿体ないだけなので堆肥や腐植酸で土壌改良しているだけという。保水/排水性も悪くなるから手がかかるしね。

 

まさにその通りです。たい肥や、そこから供給される腐植酸(腐植酸そのものの土壌改良資材も売っていますが)が肝ですね。ちなみに、腐植酸は最近話題のバイオスティミュラントとしての効果もあり、直接栄養にはなりませんが、根に刺激を与え、活性化するといわれています。

 

さん

土は死にますか

 

農耕地としては死ぬ、って感じですね。人間やその他の生き物と違って、再生はできます(大変な労力は要りますが)

 

minamihiroharuさん

俺はどこかで聞いた「土壌の有機性は重視するが肥料の有機性にはこだわらない」って言葉が好き。

 

ああ、初めて聞きましたがいい言葉ですね。まさに慣行農法の真髄といえるかもしれません。

 

agrisearchさん

「化成肥料だけでは土の状態が心配だというのなら、たい肥を併用して土づくりを進めれば何の問題もありません」

 

そこのところ、なかなかご理解いただけない人もそれなりにいらっしゃるのが今の仕事をしていてしんどいところです。

 

settu-jpさん

ゼロサム思考といって何かが増えると何かが減るという直感が人間には本能としてあるようで、迷信誤認はそこから生まれやすくそこに入りやすい。対立思考は人間の機能の一つで自分でも気はつけてはいます

 

私も同じくです。対立思考、楽というか流されやすいですからね…

↑自分のはてブをそのまま引用しました。手抜きですいません(汗顔)

 

※いつかのツーリング・四国カルスト

以上、皆さんへのお答えになりましたでしょうか。なお、疑問点のある方ははてブよりも、記事へ直接コメントを頂けるとお返事しやすいです。また、こんな疑問があるから記事にしてくれ、という要望もあればお願いします。お応えできるかは保証できませんが…。

追記:

この記事にはてなブックマークでいただいたコメントをヒントに、コメントをくださった皆さんへの宛先をリンク入りにしてみました。これで何か通知が行く…かな?

 

自家育苗のメリットとデメリット やる農家が少ないのはなぜ?

猫が膝に乗ってきてくれるようになって、気温の低下を実感しているがんちゃんです。

 

Twitter(X)で農家が自分で種を取る権利について主張されている方がおられました。ちらっと読んだだけなので、おぼろげな記憶では農家が自由に種を取れないのでは困るので、いいモノを作るためにも、制限をかけるべきではないという感じだったのではと思います。あとから読み返そうと検索しても見つけられないので、それに対する反論ではなく、改めての自分の意見として書いておこうと思います。

 

まず、農家さんが自分で種を採ったり栄養繁殖(株分けや挿し木など)で育苗を行う場合、それに対して制限をかけるというと「種苗法」という法律が関わってきます。種子法がそうだという誤解をされている方もいらっしゃるかもしれませんが、種子法はすでに廃止されていますし、存続していたとしてもそのような趣旨の法律ではありません。

 

種苗法については以前、いくつかの記事に分けて詳細に解説しました。全体像としては、最初に書いた記事をお読みいただけると大体わかると思いますが、令和3年4月から生産農家に対する制限が強くなった改正種苗法でも大きな混乱はなく、改正・施行から4年半経過した現在でも農家に対してはほとんど影響が出ていません。

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では、なぜほとんど影響が出ていないのでしょうか。そもそも制限される権利自体がそれほど大きなものではないことに加え、種苗法改正以前からほとんどの農家が自家採種は行わず、種子は業者から購入しているからなのです。種子だけではありません。直接種を播くのではなく、苗を定植する栽培方法をとる農家さんでも、自分で苗づくりをする人はどちらかというと少数派で、苗を購入してあとは植えるだけという方が多いのです。


また、どうしても自家採種にこだわりたい、という人は国や自治体、メーカーが開発した新品種などより、古くから存在する在来種を使う人が多い印象で、それなら種苗法の制限を受けないので、これまた問題ありません。

 

また、種子繁殖の作物では、特に野菜ではF1という雑種第一代が使われていることが多く、これは、F1品種であれば自家受粉で他の遺伝子が混入しないように次世代を作っても、親と同じ性質になることは少なく、目的とする性質が得られませんので、メーカーが制限をかけていなくても農家にはメリットがありません。

 

人件費を無視して、経費だけで考えれば自家育苗の方が安く済むことも多いです。いろいろな資材をそろえなければならない初年度の、つまり初期投資を除けば、輸送費や人件費を節約できる分、自分でやれば安くできるはずです。

 

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しかし、特にハウスなどを使う施設園芸の場合、栽培の適期に育苗をするとは限りませんので、暖房施設の設置や、育苗トレーの消毒・病原菌や雑草の種子がない清潔な培土など病害虫を寄せ付けない清潔な環境を農家が自力でそろえるには大変なことが多くなります。

 

また、農家には栽培期間以外にもやるべきことはたくさんありますので、育苗など可能なものは外注して、他の作業を進める方が結果的に全体の収益にはいい影響があることも多いのです。

 

例外的に、イチゴでは自家育苗をされる生産者が多いと思います。これは、イチゴはランナーという匍匐(ほふく)茎を使って栄養繁殖を行うため、地域すべての生産者の育苗を担うとなると、相当広大な施設が必要なうえ、稼働する時期は短めで無駄が多い、ということが障害になっていることがあると思います。そこで農家は前シーズンに使っていた株から出たランナーを利用し、それを親株として苗を増やし、翌シーズンに備えるのです。


ただし、何世代もそれを繰り返すとどこかでウイルスに感染することが多く、生産力が落ちていきますので、専門機関(イチゴの場合、都道府県であることが多いと思います)で増殖された無病の苗を数年に一度購入し、苗の更新を行っています。

 

以上のように、農家さんが自家採種などを行わず、種や苗を購入して栽培するのは、メーカーやJAに縛られているからではなく、自らの経営に最もいい形はどういうものかを考えて農業を営んでいるからに他なりません。農家は何も考えず、それらの組織に唯々諾々と従っているなどという考え方は、あまりにも農家を馬鹿にしすぎだと思います。