アグリサイエンティストが行く

農業について思ったことを書いていきます。少しでも農業振興のお役に立てれば。

葉ネギの外葉を剥くと言う行為に意味はあるか(脱線しまくり)

ネギという野菜は、関西以西では京都の九条ネギに代表される葉ネギ(青ネギとも呼ばれる)として使われることが多く、関東及び東日本では根深ネギ(白ネギ)が主流である。当然ながら、瀬戸内地域ではただ単にネギと言えば葉ネギであり、白ネギはわざわざ「白ネギ」あるいは「根深ネギ」と言わなければならない。

調べてみたところでは、関東は作土層が深く砂質土が多いため栽培に土寄せが必要な白ネギを作るのに向いているとのことだ。そして関西では粘質土壌が多いため、土寄せがしにくく、青ネギが発達したと言う。まぁ、これは一説でしかないわけで、関西でも砂質土壌はいくらでもあるし、同様に関東でも粘質土壌はいくらでもあるだろう。それぞれの食文化の関係もあり一概には言えないと思うが、それでも売り上げの比率は歴然と違うので、少なくとも西日本では葉ネギが、東及び北日本では白ネギが好まれるのは間違いないようだ。

関連があるといえるのかどうかわからないが、瀬戸内地域でもニンニクは栽培されており、特に香川県は全国でも第2位の生産量を誇っている。ところが、1位の青森県は全生産量の6割以上のシェアを誇っており、2位以下はどんぐりの背比べと言えなくもないくらいである。ニンニクは、球根が深いほうが品質のいいものが作れるが、瀬戸内地域ではその土質から種子(球)をいきなり深植えすることはできない。はじめは浅く植えつけておき、発芽が出揃った後で2度3度と培土(土寄せ)をすることで深植えにしていく。瀬戸内の土質及び暖地系のニンニク品種(上海早生)ではいきなり深植えにすると発芽がそろわず、品質がばらついてしまうのだ。

しかし、青森では火山灰土壌や砂質土などが多いようで(このあたり青森の土質に詳しい方おられましたらご指導願います)、いきなり深植えしてもそれほど発芽がそろわないと言うことはないらしい。それに、青森で使われている寒地系品種(ホワイト六片等)は暖地系品種より深植えに強いと言う話もある。そこで、青森ではニンニクの定植機が普及しているとのことだ。機械で大規模に一気に深植えしても歩留まりは悪くないし、そうしないと効率が悪いのである。と言うように同じ品目でも土質の違いは作型や品種の違いを生むのである。

さて、随分話が脱線してしまったが、そろそろ本題に入ろう。

西日本では、葉ネギが主流であることはすでに述べた。野菜類には必ず出荷調整と言う作業を伴うが、葉ネギの場合、洗浄して泥などを落とした後、外側の葉を剥くという作業がある。JAの系統出荷の場合、地域による違いはあるだろうが束にする前に葉を何枚までに調整と言う規格が決まっている。ここで、大量のくずが出る。もちろん、外葉といっても出荷する部分とほぼ同じなので、剥かずに出荷すれば1.5?2倍近い収量が得られる。では、なぜ外葉を剥くのだろうか。また、剥く事に合理性はあるのだろうか。

JAが生産者に規格を統一させるのは、階級ごとの品質管理がやりやすくなるからだろう。太さや長さ、色がばらばらでは安いほうの階級に引っ張られ、全体の単価が落ちてしまう。また、農作物は国内では見た目の品質競争になっている部分があるので、なるべくきれいに統一されたものを揃えたいというのもあるだろう。小売店からすれば、消費者がそれを求めており、JAにすれば小売店からの要望に応えているだけ、と言う事になる。外葉は葉が展開してからの日数が長いため色落ちしやすく、病害虫の被害を受けている確率も高い。つまり、外葉をつけていることで、「古いもの」とみなされやすくなると言うわけだ。

しかし、外葉をつけたままの出荷が可能になれば、それによる出荷量増以上に単価が下がらなければ、生産者は手間を省くことができるので、メリットはあると思う。実際、近所のうどん屋やラーメン屋などと直接取引きしている生産者は中間マージンを省けるだけJA出荷より高い単価で販売している上、外葉を剥かずに出荷しているため手間も省け、面積あたりの出荷量も多い。JA出荷のような資材(段ボール箱など)もいらない。とはいえ、出荷先としては限られた量でしかないため、ニッチなマーケットとなり、先見の明があるというか要領のいい生産者のみこういう形で儲けているのである。

ただ、これは直接取引きで早ければその日のうちに消費されてしまうために可能な出荷形態であるともいえる。先ほども述べたように外葉は色落ちしやすいし、葉先の枯れこみも比較的多い。また、収穫から消費者の手元に届くまで時間がかかるため外葉は固くなっていることもある。たとえば、タマネギで一番外側の茶色になった皮を剥いた後、そのすぐ内側の鱗片を使うとその表面が固くなっていることはないだろうか。厚みがあり、水分を保っているため捨てずに使われることも多いと思うが、炒め物や生食する場合に表皮が噛み切りにくかったと言う経験はないだろうか。ネギでも、それと同じような現象が起こることがある。特に葉鞘部という根元の白い部分は固くなっていることがある。これが外葉を剥かずに置いておくと顕著になるのである。こういう事からも、外葉を剥かずに出荷すると、日数がたったときに購入した消費者からクレームとなる可能性があるのだ。

以上の事から、現在の流通形態では外葉を剥くのはある程度仕方がないことだといえる。とはいえ、ネギ農家の作業場に行くと、比較的きれいな外葉が剥かれて山積みになっているのを見かけるたび、私もすごくもったいない気がしてやるせなくなる。この部分にも肥料などが消費されているのだ。消費者の方々には、そういう部分も農家の負担になっていることがわかっていただければ幸いである。