アグリサイエンティストが行く

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アスパラガスの美味しい時期

更新がずいぶん滞ってしまったが、それだけ筆者の引き出しが少ないということでご勘弁いただきたい。さて、今回は出来るだけ前向きなネタ、ということで作物の旬についての考察でアスパラガスを取り上げてみたい。


以前、厳寒期のイチゴが美味しい理由を解説した。寒い時期に少な目の日照でじっくり色づき、時間をかけて味が乗っていくからではないか、と言う話をさせていただいた。栽培様式によって、自然状態での旬と時期がずれる例である。それでは、アスパラガスはどうなのだろうか。

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アスパラガスは、ずれているともいえるし、ずれていないともいえる。もちろん、保温する作型によって出荷開始時期が早まっているわけであるから絶対的な時期としてはずれいてるわけであるが、アスパラガスの生育ステージからするとずれてはいないのである。それはどういうことか?


最初に断っておくと、この段落はアスパラガスの栽培についての解説なので、長いのが苦手な方はさっと読み飛ばしていただいても大丈夫だと思う。

アスパラガスの作型は地方によって大きく違うため、瀬戸内地域での栽培という前提でお話させていただく。アスパラガスは露地、ハウスものにかかわらずいったん定植したら10?15年、長い株で20年を越して植え替えせずに栽培される。


まず、先に露地栽培の説明をすると、瀬戸内地域では10月に入ると新芽の萌芽(収穫する部分)が徐々に止まり始め、10月中にはほぼ止まってしまう。それから冬季の低温によって地上部が枯れ始め、12月中にはほとんど黄化し、休眠状態に入る。そのとき、次の栽培開始に備えて地上部を刈り取ってしまうのである。そして4月になると萌芽が始まり、萌芽してくる若茎はしばらくすべて収穫する。6月くらいには萌芽してきた芽の一部を残し、親株を形成させ(立茎)、その根元から萌芽してくる若茎を収穫する。というサイクルを毎年繰り返すのである。

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これがハウス栽培になると、10月で萌芽が止まり、12月までに地上部がほぼ枯れてしまうところまでは同じだが(年内は保温しないことが多い)、年が明けて刈り取りを行なった後ハウス栽培ではビニールをかけて保温を行なう。生産者の栽培様式に合わせて、ビニールを2?3重にするが、加温(ボイラーなどを使う)は行なわない。保温を始めると状況にもよるが2?3週間で萌芽が始まる。つまり、2月上旬くらいから収穫が始まるのである。ただし、定植して一年目だけは刈取り時期が早く、また保温から萌芽の始まりまでが短いため年明け早々から収穫が始まることが多い。


さて、それでは刈り取ったあとの地下茎から新芽が出てくるときはどこからエネルギーが供給されているのだろうか?地上部に葉(アスパラガスの場合、葉に見えるところは擬葉といい、茎が形態を変えたものである)がたくさん茂っているときは、そこで光合成によって作られた糖分が使われているのだが、春先の萌芽は貯蔵根という太めの根に貯められた糖分をエネルギーとして生えてきている。この貯蔵根は10月に入って萌芽が止まってから、その分使用されなくなった糖分を溜め込んでいく。また、この時期には新しい貯蔵根もどんどん作られていくのである。


秋以降光合成によって作られた糖分を貯蔵根にどんどんと溜め込み、温度が上がるとたっぷりある糖分を使って新芽が伸びてくるため非常に糖度が高いアスパラガスになるのである。また、保温されているハウス栽培の場合、気温・地温は高くなるが日照は少ないままである。アスパラガスは強い光が当たると表面が硬くなる傾向があるため、ハウスものの1?2月、露地ものの4?5月の収穫物は軟らかくなる。また、十分に糖分を持たずに生えてきた芽は早く側枝を出そうとするため、短いうちに穂先が開きやすく、形が崩れやすいが、萌芽しはじめの株ではそういうことがないため、非常に形も揃ったものが収穫しやすいのである。


このように、瀬戸内地域(特に香川産)のアスパラガスはハウスもので1?2月、露地もので4?5月が一番美味しい時期となる。4?5月は露地ものの初物とハウスものの夏芽の両方が出てくるし、見分けは付きにくいので難しいが、少なくとも1?2月は瀬戸内地方産のアスパラガスは初物ばかりである。この時期は少々高いが、柔らかく、甘くてとても美味しいのでスーパーなどで見かけたら是非とも手に取っていただきたいものである。