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種苗法3 国内の栽培地域指定について

さて、ここまで種苗法の存在意義と海外持ち出し制限、その根拠となるUOPV条約について解説しました。今回は、農水省のpdf改正種苗法について~法改正の概要と留意点~11ページの項目から、国内の栽培地域指定についてとそれ以降の項目について順を追ってやっていきたいと思います。

 

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※改正種苗法について~法改正の概要と留意点~15ページより

 

国内の栽培地域指定とは、最近よく言われている地域ブランドの確立を特定の品種を用いてやる場合など、産地形成と地域振興に資するものとして作られたものです。従来法でも、特にイチゴなどの果物で顕著ですが地域ブランドの確立に各都道府県などが新品種を育成した際、地域の農協などのみと許諾契約をすることで、その農協所属の生産者以外への種苗引き渡しを制限し、実質的に地域制限と変わらない状況にするという事例がありました。

 

今回の栽培地域指定は、品種登録出願時に栽培地域に制限をかけたい場合に、栽培の可能な地域を指定地域として届け出を行うことでそれ以外の地域への栽培を制限するものです。従来法のようなややこしいことをしなくても産地形成を行いたい地域でしか栽培ができない状況を作ることができるようになりました。ただし、指定産地外でも許諾を受ければ栽培可能です。

 

これに伴い、種苗業者は種苗を譲渡する際にその種苗が登録品種であり、指定地域外での栽培に制限がかけられていることを表示する義務ができました。のちに出てくる登録品種の表示の義務化でまた詳しく説明したいと思います。

 

なお、登録出願者が栽培地域の制限を行う意思がない場合は指定地域の届け出をしないことでどこでも栽培可能にすることもできます。育成・出願者が国である場合は国内で制限をかけられることはないと思われますが、都道府県の場合は地域ブランドでしのぎを削っていますので、多くの場合県内を指定地域にすることが予想されます。民間の種苗メーカーの場合は特殊な場合を除き、多くの売り上げを上げることが主眼に置かれるので、栽培地域の指定は行われない場合が多いでしょう。

 

というわけで、今回はここまでとさせていただき、次回は「登録品種の増殖は許諾に基づき行う」部分について、以前の「農家さん、ご心配なく。種苗法の一部を改正する法律案についての解説」でお話しできなかった実務的な部分について触れていきたいと思います。

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