アグリサイエンティストが行く

農業について思ったことを書いていきます。少しでも農業振興のお役に立てれば。

農地への有機物の施用はなぜ必要なのか

1日座り仕事をしていると膝がこわばるようになったがんちゃんです。

 

前回のPFAS解説記事での、有機物の循環についてもう少し突っ込んで話してみた方が良いなと思いましたので、追記という形で独立した記事にしてみました。

 

様々な人間活動において、持続可能性は重要な課題になっています。それは、その活動内容によって、経済的なものであったり、環境的なものであったりします。農業においても、個別の経営体で見れば、経済的に成り立たなければ持続的に続けていくことはできません。また、人類全体で考えてもそうですが、もう少し実感しやすく地域で考えても環境に配慮したものでなければ持続可能なものにはならないでしょう。

 

その一つの手段として、有機物を農地に戻す循環型農業が考えられます。

 

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農業を生産技術だけでとらえれば、収量・品質共に有機物の循環は必須ではなく、植物の生育だけに留意して資源を投入していけばいいわけです。しかし、それで土壌の状態が悪化したり、周辺環境が変わってしまえば植物は育てにくくなり、結果として持続的に農業を続けていくことができなくなります(養液栽培を活用した施設園芸など一部例外もありますが、ここでは本筋を外れるためいったん脇にどけておきます)

 

自然状態では、食物連鎖というものがあり、動植物は死後自然に帰っていきますが、その頂点に立っている生物でも最終的にはその遺骸や排泄物は土中や水中で分解され、微生物などのエサになり、また食物連鎖に組み込まれていきます。


ところが、そこへ人間活動が関わってくるとどうなるでしょう。人間は家畜などの動物も、農作物も食料として摂取します。ところが、文明が発達した現在では人間は(少なくともわが国では)遺骸は火葬されますし、排泄物は下水を通して処理されたりして、有機物が大気や海に分散され、有効に活用されることはありません。

 

そこで、できるだけ人為的に、集中的に農地へ有機物を戻す循環型農業の必要性が出てくるわけですが、有機物を完全に循環させても、そういう状況において我が国は、人口に対して耕地面積が不足しており、養える人口は3000万人程度が限界と言われています。つまり、2024年現在の日本の人口は1億2千万人強ですから、国内で完全な循環型農業が達成できたとしても、4分の1の人間しか養えないことになります。

 

それでも、だからと言って有機物の循環に対する努力をしなくてよい、ということにはなりません。化成肥料といえども無限に作り出せるわけではないし、植物の必須元素であるリン酸など主要原料の資源枯渇が懸念されるものもあります。リン酸は、主にリン鉱石から作られ、その鉱床は動植物の化石質やグアノ(鳥糞化石)が基になっており、有限の資源とされています。単に埋蔵量だけが問題なのではなく、原料としてコストの見合う採掘ができる場所が限られている、ということもあります。

 

というわけで有機物、中でも腐植(炭素)を農地に戻すことと、それに合わせて他の土壌養分を有効活用することも大事になってきます。例えば、土づくり資材の代表的なものとしてよく挙げられるのは家畜ふん堆肥だと思いますが、畜種によって違いますが、バーク堆肥や腐葉土など植物質の資材に比べ肥料成分は多くなります。つまり、腐植(炭素)の循環を重視するなら植物質の堆肥(ほかに、緑肥作物の作付けという手段もあります)、土づくりに合わせて肥料成分の供給も行うなら家畜ふん堆肥となります。

 

よく利用される家畜ふん堆肥の中では、鶏ふん>豚ぷん>牛ふんの順で肥料成分は多くなります。逆に、土づくりの重要な項目である腐植の増加については牛ふんがもっともその効果が高く、次いで豚ぷん、鶏ふんとなります(どちらもおがくずやもみ殻などの副資材は含まない場合)。ですから、腐植に着目し、土壌物理性の改善を主目的とした場合は牛ふんを、肥料成分の供給を重視する場合は鶏ふんを使うといい、ということになります。どの畜種を使うのかは有機物を循環させる目的、どのような植物をどのような目的で栽培するのかによって選ぶといいでしょう。ただし、鶏ふんは肉用鶏と採卵鶏では主にエサの違いなどから肥料成分量が違い、一般的に肉用鶏は窒素が高く、採卵鶏ではリン酸とカルシウムの数値が高くなります。

 

以上のようなことに注意しながら、栽培する植物の種類や目的などによって堆肥をはじめとした有機質資材(堆肥・肥料も含む)を上手く組み合わせて使い、資源の節約と土づくり、環境保全を進めていくことが大事なのだと思います。