アグリサイエンティストが行く

農業について思ったことを書いていきます。少しでも農業振興のお役に立てれば。

これで農薬除去って・・・脱力・・・

昨日、友人の黒猫亭さんからメールを受け取った。それによるとNATROMさんと言う方が農薬を除去し、抗菌作用や消臭、調湿作用があるというホタテ粉末について「科学」「トンデモ」というカテゴリーでこちらで取り上げているとのこと。正確に言えば、そのホタテ粉末を販売しているサイトの内容について、その問題点を指摘しておられるようだ。
NATROMさんは他の科学系ブログのコメント欄でも何度かお見かけしたことがある方で、内科医という立場からもニセ科学の問題に積極的に取り組んでいる。

これを読んで思い出されるのが、昔私の職場に訪問販売に来たとあるアルカリイオン整水機だ。お昼休みに来て、その整水機で作ったアルカリイオン水で炊いたご飯のお弁当を提供するので、話を聞いて欲しいとのことだった。
とりあえず冷やかし程度に話を聞いてみると、この手の水商売にありがちな水道水が体に良くない話から始まって、次にアルカリイオン水の効能についての話になった。

まず、水道水になにやら指示薬を入れる。これに市販の食パンを入れてかき混ぜると赤くなった。販売員はこれは活性酸素の色であるという。人間の胃の中を再現しているらしい。そこへ、アルカリイオン水を入れるとみるみる赤色が消えていった。アルカリイオン水には活性水素なるものが含まれており、活性酸素と結びついて無害化するという説明だ。
次に、アルカリイオン水ミニトマトを洗ってみせる。すると、水道水で洗った方は変化がないが、アルカリイオン水はやや黄色くなった。これはトマトの表面に付着している農薬が溶け出してきたから、らしい。

ほかにもいくつか”実験”をして見せたが、余り詳しくは覚えていない。何せ6年くらい前の話なので(笑)。アルカリイオン水だとお茶が薄まらないとか、アルカリイオン水でお米を洗うとより白く濁るとか・・・それが何を意味するのだったかを覚えてないのだ。
で、この販売員の話の何が問題なのか。

まず最初の実験で、水道水に赤い指示薬を入れていた。これはどう見ても化学実験でよく使われるメチルレッドである。メチルレッドはpH指示薬で、ごくおおざっぱに言うと酸性だと赤、中性?アルカリ性で黄色になる。これが食パンでかき混ぜたときに赤くなったというのは、食パンを作る際に酵母菌で発酵させるが、この発酵過程で作られた有機酸に反応したものと思われる。pH指示薬であるメチルレッドで活性酸素量が測れるとは思えない。そして、当然ながらアルカリ性であるアルカリイオン水を入れると中和されて赤色が消えるわけだ。
仮に、アルカリイオン水活性水素なるものが含まれていたとしても、活性酸素と結びつくのが活性水素でなければならない理由がわからないし、そう言う化学的に不安定なものが体内でいつまでも何かと反応しないとは思えない。

つぎに、ミニトマトアルカリイオン水で洗ってみせると言う方だが、これはアルカリによってトマトのリコピンかカロチンが溶け出したと考えるのが普通だろう。色的にもその方が納得できる。仮に、そのミニトマトに農薬が残留していたとして、そんなはっきり目に見えるほど色が変わるのなら、そんなもの店頭に並ぶわけはないのである。そんな簡単に農薬が検出できたら、もしくは除去できるのなら苦労はない。
それに、農薬は非常にたくさんの種類があり、それぞれに性質が違う。水溶性のもの、溶剤が必要なもの・・・。それを「農薬」とひとくくりにして、アルカリイオン水だけで対応できるなど夢の話としか思えない。

しかし、農業関係の、ある程度科学リテラシーがある人間が集まっている職場で、こんな与太話でアルカリイオン整水機を買ってもらおうなどと勇気あると言うか無謀な販売員もいたものである(笑)。
アルカリイオン水が本当に体によいのなら、こんな明らかに科学的に間違いの説明を無理矢理付ければかえってマイナスイメージが増幅するとは思わないのだろうか。

NATROMさんが取り上げておられたホタテ粉末もこのレベルの話だと思う。ちょっと考えれば、おかしいところがたくさんあるというのはすぐわかるのに、ころっとだまされてしまう人が多いのは困ったことだと思う。

少し横道にそれるが、よく学校教育は実生活にはなんの役にも立たないという人がいる。しかし、きちんとその内容を理解し、教養として自分に取り込んでおけば、こういう話をどう判断するかの材料になるはずである。教養を身につけると言うことは、自分のいくべき道を自分で選ぶことができるようにする、と言うことなのだと思っている。

閑話休題

もちろん、ホタテ粉末にしても、アルカリイオン水にしても、商品そのものはもしかしたらすごく良いものかもしれない。その可能性は否定できない。しかし、その説明は問題だらけである。販売会社が、本当に自分のところの商品に自信があるというのなら、誤った説明などせずに、商品の良さそのもので勝負すればいいのに、と思うのだが・・。