アグリサイエンティストが行く

農業について思ったことを書いていきます。少しでも農業振興のお役に立てれば。

やっぱり反対しておく、TPP

今までTPPに関してははっきりした態度を表明していなかった。それは、自分の中でTPPに対しての考えがしっかりとまとまっていなかったからだ。では今回、エントリを挙げるに当たって考えはまとまったのかというとまだである。しかし、そんなことを言いながらもにょもにょしているうちにどんどん先を越されてしまった。特に、最近twitterでフォローさせていただいたこうめさんはしっかり自分の考えを持ち、TPPに対する考えを表明されている。そこで、自分も途中経過ではあっても自分の考えを披瀝しておく必要があるだろうと考えた次第である。

さて、私は現時点でTPPに対してどう考えているか。少し前までは参加やむなし、それで向上した分の景気を農業政策に使う、あるいは国として国民として国産農作物を買い支え、日本の農業と農地を守るしかないと思っていた。いや、今でもそう思っている。ただ、やむなしの内容が少々変わった。以前はやや積極的にやむなしと思っていたのだが、今では流れ的に止めようがないのではないか、と言うスタンスだ。それならばTPPに参加するまでに農業政策についてどこまで踏み込むのかをしっかり決めておくべきだし、国民全体がきちんと判断できるように情報提供も徹底しておくべきだろう。そのためには自分も微力ながらできることはやっておきたいと思っている。

さて、その上で自分としてはどう思っているのか。表題の通り反対である。まず、農業の面だけを見れば、稲作では持続可能な価格が維持できないのは火を見るよりも明らかであろう。日本の土地の利用効率を考えれば、アメリカやオーストラリアに適うはずもないのは今更私が言うまでも無く、多くの人が指摘していることだ。それらの国にどれだけ日本向けの短粒種(ジャポニカ米)栽培の適地があるかわからないが、少なくとも日本よりは一筆の面積が大きなほ場は多数確保できるだろうし、日本への輸出が効率の良い商売になると言うことになれば、ジャポニカ米に転換する産地が出てくることは想像に難くない。それで、日本の水稲作が壊滅状態になったとしたらどうなるか。これも多くの方が指摘しているようにその周辺産業への影響がどこまで波及するのか想像もつかない。また、野菜などはまだ勝負できるとは思っているものの、露地野菜は水稲作なくしては成り立たない場合が多い。結局品質や収量も今のままとは行かなくなる公算が大きいのである。

つまり、何の対策も打たなかった場合、少なくとも今より農業の状況は確実に悪くなる。現在の農業が他の産業に類を見ないくらい好調であるのならまだしも、現時点ですら滅多なことでは新規就農を薦められないような現状で、なお悪くなることがわかっていてその方向へ進む政策を支持できるか。少なくとも自分にはできない。

それと、自分として心配なのは輸出産業が好調になったとしてそれで本当に好景気がやってくるのか、と言うことだ。たとえ一部企業(どのくらいの規模かは想像もつかないが)が儲かっても、国内に目を向ければ農作物以外にも関税のかからない物品が大量に入ってくることも考えられる。TPPに参加しない中国からの現時点の輸入ですら、これだけ国内の様々なものの価格を下げている。つまり、今以上にデフレが進行することが懸念されるのだ。

私は経済学にはずぶの素人なので、間違ったことを言っていたら指摘していただきたいのだが、デフレになれば確実に経済は停滞するのではないか?ものが安くなると言うことは買う方からすればありがたい面もあるが、投入されたエネルギーに対して動くお金の量が少なくなるため働いても働いても売っても売ってもお金が世の中を回らなくなる。好景気の時というのはアイディアやサービスに対して大きなお金が動くものである。今は良いものでもより安くが正義である。TPPが発動することによってそのデフレがさらに加速しないだろうか。どう考えてもデフレ傾向が強まるとしか思えない。そうなれば、景気浮揚による農業への投資という自分の考え(希望)も困難だと言うことになろう。不景気に喘ぎ、明日への希望も見えない中で高い国産農作物を買い支えてくれと誰が言えようか。そんな事態に陥る事が目に見えていて、TPP参加すべし、と軽々しくは私には言えない。

おそらく、TPP参加によって経済がどのように動くのか正確に予測できる人はいまい。しかし、最悪の事態を想定することは様々な知恵を集めればできるはずだ。そして、それを避ける知恵も、不幸にして最悪の事態に陥った場合にもそのダメージを最小にする知恵も出てくると思う。少しでも幸せな明日を夢見るためにも多くの人に考えてもらいたい。どのような結論を出すにせよ、声の大きな人に引きずられて失敗した過去の政治の愚を繰り返すことないようしっかり考えていくべきだろう。