アグリサイエンティストが行く

農業について思ったことを書いていきます。少しでも農業振興のお役に立てれば。

この冬の野菜の単価は高騰しているが

この冬、野菜の価格は高価格で推移している。少なくとも瀬戸内地方では昨年末からの低温少雨傾向で露地野菜の生育が停滞し、出荷したくても規格を満たす大きさにならず、出荷数量が極端に少なくなっている。ここへ来て降水量が増え、日が長くなってきたこともあって、出荷数量は増えつつあるもののそれでも十分とはいえない。農家は高単価であることはわかっていても指をくわえてみているしかないという状況なのである。

もっとも直接的な影響を受けているのはブロッコリーだろう。早い品種では8月下旬から植え付けが始まるが、9月の台風連発で定植したばかりの苗がたくさん被害を受けた。また、ブロッコリーに限らないがなかなか耕運・畝立てなどの作業が進まず、土壌水分の多い状態で無理に畝立てをして土塊が大きすぎたり、逆に土壌孔隙がほとんどないようなほ場状況で定植を強行したところも多い。こうして苦労してほ場の準備を進めていて、なお台風で畝を崩され、作業をやり直さざるを得なかった人もいた。

このように土壌水分が多く、地下水位も高い状態で定植されたブロッコリーなどの露地野菜は、地上部はそれなりに生育するものの、根の発達は十分ではないものが多い。このため生育が遅れ、ブロッコリーなどは年内出荷予定だったものが年明けでもなかなか規格の大きさに達せず、高単価をにらんでL玉を待たずM玉で出荷した人も多かったようだ。

タマネギやニンニクなどは春先の出荷になるし、地下部を収穫・出荷するため低温傾向も関係ないように思えるかもしれない。しかし他の露地野菜と同様に地上部(茎や葉)は順調に生育したが、根の発達が不十分であるところへ年末からの少雨で葉の先端まで水分がいきわたらず、そこへ寒波が来たために順調だった茎葉の生育があだとなって葉先枯れ症状が顕著に現れている。もちろんこれが収穫物を直接傷めることはないが、痛んだ組織から病原菌が侵入しやすく、今後急激な気温上昇があり、さらに多雨傾向になれば根腐れ性病害の多発が心配される。

施設園芸でもイチゴで低温のため暖房の燃料費がかさばっているのに日照が少なく、果実の着色が進んでいない。このため、暖房をしている割りに出荷が進んでいないのである。普通は着色に時間がかかればそれだけ炭酸同化からの転流が多く甘みが増し、厳寒期はイチゴがもっともおいしい季節になるはずが寡日照のためか思ったほど甘みが乗っていない。それでも九州からの出荷が少ないため高単価で推移しているが、出荷量の少なさから農家の収入増にはつながっていないのが現状である。3月に入って気温が上がってきたとき、各地からの出荷が急激に増加しての値崩れが心配されるところであるが・・・。

このように考えていると、農業はつくづくギャンブルだな、と思う。例年高単価になる時期を狙って定植しても今年のように極端に生育が遅れたり、前進したり。そのため他産地などと出荷が重なって単価が思ったように上がらない。作業の分散を狙って定植時期や品種を変えて計画的に収穫しようとしても後から植えたものの生育が追いついてきて、結局同時期の出荷になったりもする。思ったような時期に出荷できても社会情勢などで極端に単価が下がることもある。今年度前半などは震災の影響を受け、通常高単価の時期でも農作物の動き(流通)が悪く、ずっと安値で推移していた。

そうかと思えば平成20年には輸入餃子の農薬混入事件によってニンニク価格が高騰し、普通に作っていただけなのに予想外の高収入を得たようなこともあった。

話は変わるが、景気を良くするためには人々がお金を使い、社会に流通させることが必要である。必要最低限以外の事に気持ちよくお金を使ってもらうためには生活の心配がないことが必要だろう。今ある程度の金額を使ってしまっても、生きていくには困らない程度には蓄えがあると思えなければならない。あるいは、いついつまでに必ずある程度の金額が入ってくるという保障がある、でもいいだろう。

今の農業の状況を見るにつけ、やはりこれでは農家は安心してお金を使うことができないと思う。たとえ突発的な高単価で一時的に儲けても、いつ収入が無くなるかわからない状態では必要最低限のお金しか使えまい。何かあった時のためにと残しておきたくなるのは当たり前である(今の世の中、サラリーマンでもそうだと思うが)。

しかし、それでも農業に魅力を感じ、日本の食糧事情を支えたいと思ってくれる人はいる。それらの人たちに、少しでも生産が安定するための技術提供は当然全力でやっていくが、今の世の中にはびこっているように思える弱者に厳しい政策を見るにつけ、農業の将来への不安からこの国の将来へ悪影響が広がっていかなければいいが、と切に願う。