アグリサイエンティストが行く

農業について思ったことを書いていきます。少しでも農業振興のお役に立てれば。

栽培の指導と現場感覚

この4月に人事異動によって担当地域が変わった。拠点とする事務所の場所が変わり、ほとんどなじみがない土地で巡回・指導をしなければいけなくなった。しかも、担当する品目も変わった。一応、以前と同じ野菜担当ではあるが、以前の勤務地ではイチゴ、ニンニク、ネギ、タマネギ、モロヘイヤだったのが今度はアスパラガスとトマト類である。

このどちらの品目もほとんど関わった事はなかった。指導の仕事はおろか、以前試験研究をしていた時でも関わっていなかった品目である。なので、結構ストレスを感じている。トマトは産休職員のピンチヒッターで時期限定での担当なのでまだ気が楽だが、いい加減な仕事ができないのは同じことである。

それにしても、新規品目を担当することになって一番困るのが「現場感覚がない」ということだ。今まで経験のない品目を担当するに当たって、当然その栽培マニュアルや関連書籍などを読み込み、覚えるということは最低限行うわけだが、書いてあることが結構抽象的であることがある。アスパラガスの場合、「収量が減少してきて茎の先端が開いたり、曲がった茎がでたり、細くなり始めたりしたら〇〇する」という表現があるが、どこからどこまでが開いているのかとか細いものばかりというのがどのくらいなのか見比べるべきデータが頭に入っていないため結論を出すために、あるいは農家さんに選択肢を示すのに時間がかかって仕方がない。

もちろん、これから行かせていただく現地で色々なデータをとって、初めのうちはデータを元にして機械的に栽培管理の話をしていくことになる。それでたくさんの現場を見ているうちに応用が利くように自分の頭を鍛えていくわけである。それが自分の考える「現場感覚」というやつなのだ。

今まで担当していた品目では、イチゴでは2年目で少しものが言えるようになり、3年目で「現場感覚」が身に付いたように思う。時期ごとの理想とする姿、市場価格との関連、気候や病害虫の発生状況などを総合的に勘案して対応策を提示する、ということができるようになった。ただ、常に100%ベストのものがいえていたかどうかというと自信はないが、困ったり迷ったりしている人によりベターな選択肢を示すことはできていたのではないかと自負している。他の品目も似たようなものであるが。

それにしても、農家さんはご自身の生産物に日々触れているのだからわれわれのような指導の仕事をさせていただいている人間よりは現場感覚はより強いはずだと思うが、われわれの利点は「より多くの他の農家さんと比較することができる」ことに尽きると思う。それによって、その場その場での相場観(市場価格ではなく、栽培現場における「適切」の感覚)が形成されているのが大きいのではないかというわけだ。もちろん、それ以外にも立場上情報が収集しやすいということもあり、新技術に関する情報提供は常に求められているところである。

とりあえず、地域のことも品目のこともよくわからない今、頼りになるのは地元のJA担当者の方々である。まずは彼らに頭を下げて、現地を連れ歩いてもらうしかない。現場感覚もそうだが、まずは道を覚えなくては・・・。