アグリサイエンティストが行く

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農業の観点から見たEMぼかしの問題点と活用について

今までにも何度か取り上げてきたと思うが、有機質資材としてEMぼかしというものが市販されている。また、有機志向の農業、園芸関係のサイトで取り上げられていることも多く、愛好者は多いようである。

EMぼかしとは、EM菌と呼ばれる微生物資材を利用して作られたぼかし肥料である。EM菌とは琉球大学名誉教授の比嘉照夫氏が開発した有用微生物群(Effective Micro-organisms)の総称で、光合成細菌、酵母糸状菌、放線菌、乳酸菌など2科10属80種を含むとされている。また、ぼかし肥料とは、そのままでは肥料成分量の高すぎる有機質肥料をオガクズやもみがらなどを混合したり、または大量の土壌と混合して薄め、発酵させることで「ぼかし」、その効果を緩やかにしたものといわれている。EMぼかしの場合は前者のことを指すものと思われる。

ではまずEMぼかしの作り方を簡単に解説したい。材料としてはもみがらなどの有機質資材を使う場合が多いようだ。もみがらにEM菌と糖蜜を希釈したもの、米ぬかをよく混合し、適度な水分量にして蓋付きのバケツやビニール袋など密封できる容器に入れ、2?3週間発酵させて甘酸っぱい発酵臭になったらできあがりとのことである。また、表面に白っぽいカビが生えることもある。もみがらに米ぬかを混合するのはもみがらだけでは炭素率(C/N比・炭素:窒素)が高すぎ、発酵が進まないためと米ぬかは乳酸菌の供給源にもなるからというのもあると思われる。

ここで、密封できる容器を使うのは酵母や乳酸菌など嫌気性菌による発酵を行うためである。しかし、ここで疑問が生じる。一般的に有機質資材を発酵させて作る堆肥は切り返しを行いながら好気的に行うのが普通である。これは一般的な土壌中では圧倒的に好気性菌の占有率が高いからであり、乳酸菌などが土壌中でどのように働くのかはよくわかっていない。また、嫌気的発酵で生じる乳酸などの有機酸やアルコール類は普通は植物の根にとって阻害要因にしかならない。このため、浅学な私には有機物をわざわざ嫌気的発酵させる意味が分からないのである。しかも、EMぼかしの作り方を紹介しているサイトでは出来上がったEMぼかしはすぐに使わず、広げて乾燥させたりしておいたり、土壌に施用して数日?1ヶ月待ってからなどと書いてある。しかしそうすることでEMにも含まれている好気性菌が働いて化学的性質は変わってしまうのではないだろうか?pHが低すぎるためすぐにはそうならないのだろうか?いずれにしても、土壌中に施用された場合土壌の緩衝力によって中和(という言い方はちょっと語弊があるが)され、土壌中の好気性菌によって発酵が進み、堆肥化していくと思うのだが。

ここで、比嘉先生が総監修を努める「EM環境革命」という書籍を見てみると、物質は酸化によって劣化していくので嫌気性菌によって抗酸化力を養成することが大事であるというようなことが書いてある。また、目に見えないエネルギー(波動?)が働いているようだとも述べている。物質的な現象に着目すれば、なんだかよくわからないEMぼかしの効果であるが、このような理由から土壌改良や植物の生育に良いとされているのである。しかし、まったく意味が分からない。申し訳ないが、このあたりのツッコミに関しては自分の手に余るので、こちらとかこちらを参照いただきたい。

先ほども述べたように、通常堆肥は発酵しやすいように炭素率や水分含量を調節し、好気的に切り返しを行いながら発酵させていく。嫌気的に行った場合、腐敗する(微生物の作用が有害に働く)ことが多い。完熟堆肥とはこのように発酵させ、植物の生育に障害がない状態になったものを言う。このため、EMぼかしは堆肥としては完成した状態とは言いがたい。EMぼかしは有機質資材の原料としてそれ自体悪いものではないと思うが、畑に施用するならさらに好気的発酵を行い、しっかり堆肥化してから使うべきなのではないだろうか。

それでは、ついでなので完熟堆肥の簡易判定法について述べておきたい。

1 やや暗めのこげ茶色であること

  有機物が分解されてできる腐植酸の色

2 適度な水分であること

  発酵熱で水分がかなり蒸発しており、軽く握って固まるがすぐ崩れる程度

3 アンモニア臭や生糞のにおいがしないこと

  発酵臭は残ることもある。特に鶏糞など。

4 発酵熱が収まっていること

  まれに完熟判定後でも発熱する場合がある

ただ、完熟堆肥の判定は達観で完全にやるのは難しいため、あくまで目安と思っていただきたいが、ほとんどの場合こういう判定で植物に害が出ることはない。EMぼかしも有機質資材の原材料としてこのような点に注意して使っていただければ材料などから考えてまず問題ないと思われるが、土壌肥料学会の報告(pdf)では特別にいい結果は得られなかったという点については留意していただきたい。