アグリサイエンティストが行く

農業について思ったことを書いていきます。少しでも農業振興のお役に立てれば。

組織として信頼を得るためにできることとは

今年(平成24年)3月20日に京都で「日本の農業と環境シンポジウム」が開催された。主催は「農業生産法人 日本豊受自然農株式会社」である。シンポジウムの表題と主催者名を見る限り、何の問題もないように思える。しかし、内容を見ていくと、農業技術者として看過できない問題があると言わざるを得ない。 さて、ではプログラムを見ていこう。 (リンク先を参照ください) めまいがしそうな表題が並んでいるプログラムであるが、それらの問題はとりあえず置いておくとして、この中で自分の立場上どうしても触れておかねばならないのは「自然農による酪農業の現状と今後の課題」というまともそうな表題で講演している片野敏和氏のことである。 片野氏が代表理事を勤めるJA函南東部は酪農専業というやや特殊な農協で、安全安心な牛乳を標榜している。酪農を行っていくうえで、廃棄物処理の問題は避けて通れない。大量に出る牛糞尿はそのまま捨てれば産業廃棄物であり、処理に非常に手間や費用がかかる。というわけで、それらはほぼ堆肥化され、耕種農家(食用作物の栽培農家)に有償で譲渡できるようにする。つまり(安全安心を謳うならなおさら)循環型農業を実践せねば酪農そのものの成り立ちが危うくなるので、堆肥などの有機質資材を利用した自然農とは親和性が高いのだろう。また、片野氏は自然農を標榜する娯楽的酪農施設運営会社の社長も勤めている。だから、こういう環境保全型農業のシンポジウムで講演をすること自体は自然な成り行きであるとは言える。 では、何が問題なのだろうか。 プログラムの表題を見ただけでいくつかツッコミどころがあるが、まずは開会のところで「由井寅子(日本豊受自然農株式会社 代表)」とある。もちろん主催社の代表なので、開会を執り行うのは当然のことだが、この由井寅子という人物は一般財団法人日本ホメオパシー医学協会(JPHMA)の会長でもある。つまり、日本豊受自然農株式会社はホメオパシーという200年もの歴史を持ちながらその効果がいまだ証明されていない、というよりプラセボ以上の効果がないとほぼ証明されている「医療」を標榜する団体の関連会社なのである。 JPHMAの問題点は様々に指摘されている(代表的なのはここ)が、ここでは詳しく論じない。しかし、この団体は通常医療を否定する立場をとっていることは間違いないし、日本豊受自然農のサイトでも現代の農業が病気の原因であるとも取れるような文章を掲載しているのである。このような団体の主催するシンポジウムの講演者に生産者の代表たるJAの代表理事が名を連ねていて良いのだろうか。 このシンポジウムのサイトや案内でプログラムを見たとき、錚々たるメンバーの講演者の中にJAの代表理事の名前があったらどう思うだろうか。JPHMAや日本豊受自然農の問題点を理解している人ならJAの信頼性に疑問を持つだろうし、農家を含むそうでない一般人が見たならJAが絡んでいるのだから問題ない団体・会社なのだろうと理解するのではないか。前者の場合、まじめに取り組んでいる多くのJA職員に多大な迷惑がかかるし、後者の場合は多くの人が現代医療や農業を否定する考えに傾く危険性をはらんでおり、結局はJAの信頼性に傷が付くことになろう。地方ごとにJAは独立した組織であるといいながら、一般人から見れば同一視される可能性があるのだ。 ひょっとしたら、片野氏は循環型農業の提携先として、また遊休農地の有効活用実践者として有益であるため、軽い気持ちで講演を引き受けたのかもしれない。しかしそれは、(自分が推測したとおりであれば)短期的に見ればJA函南東部に利益をもたらすかもしれないが、非常に危ない橋を渡っていると言わざるを得ない。できるだけ早いうちに営農指導員なりの技術者が問題点に気がついて、軌道修正をしてくれることを願うばかりである。