アグリサイエンティストが行く

農業について思ったことを書いていきます。少しでも農業振興のお役に立てれば。

ほほ染める野菜たち

今頃の野菜といえば、ブロッコリーやナバナなどアブラナ科野菜が多い。この寒い中でもそれらの野菜はゆっくりと、だが確実に大きくなっている。しかし、ここのところの低温や霜によって葉などがいためられ、畑でそれらの野菜を見かけると、外側の葉ほど赤くなっているのを見たことはないだろうか?

それらの葉の色は、赤というより赤紫といったほうがイメージに合うかもしれない。それらは、なぜ赤くなっているのだろうか?

多くの植物でそうだが、それらの色はアントシアニンという色素である。アントシアニンとは花青素ともいわれ、多様な植物で花や果実などその鮮やかな色の元となっている。花青素の字面どおり、ヤグルマギクの青い色がアントシアニンを含むアントシアンの語源(ギリシア語で青い花の意味らしい)となっているが、条件によってはアントシアニンは青から鮮やかな赤まで変化するのである。

では、なぜ普段は顔を出さないアントシアニンが表面に出てくるのか。これらアブラナ科野菜の場合、よくあるのは寒さに当たることである。特に、ブロッコリーの葉や花蕾に霜が降りると顕著に赤くなる。また、栽培中に肥切れを起こしたときも下の葉から赤くなることがある。つまり、これらはストレスによって生成する。

アントシアニンは一般に紫外線をよく吸収するといわれ、必要以上の光が当たると表皮細胞にあるアントシアニンが紫外線を吸収し、葉緑素を保護するといわれている。このことから、低温になると炭酸同化作用が低下してくるので、過剰の光を吸収するためにアントシアニンが増加してくるのである。肥切れのときの赤色発現については、窒素が不足してくることにより葉緑素(クロロフィル)を分解して窒素を取り込むことによってアントシアニンが目立ってくると思われる。

アントシアニンはアスパラガスなどでも発現し、極端なものとしては紫アスパラガスなどの品種もある。他の品目でも紫キャベツやレッドオニオン、はつか大根など赤くなる品種がある。また、イチゴの赤もアントシアニンである。

アントシアニンポリフェノールの一種であり、機能性栄養成分として有名である。よく言われるのがブルーベリーなどの視力回復、眼精疲労軽減効果であろう。これらがどの程度の効果があるのかはわからないが、とりあえず一般にそういう認知があることは間違いない。しかし、本来そういう色をしている品目のものの場合は別として、通常緑色をしている野菜類でアントシアニンが発現しているものは、そういう機能性があるにもかかわらずたいていは等級を落とし、単価が下がってしまう。それは、そういう色が出ることが古かったり、傷んだりしているイメージがあるからだろう。アスパラガスでも、紫アスパラならありがたがられるのに、グリーンアスパラで根元が赤く着色しているものは出荷規格ではねられてしまう。このアスパラガスにしても、あるいはブロッコリーなどでもゆでればアントシアニンは退色し、きれいな緑色になるのだが・・・。イチゴでも低温などでへたの部分が赤紫に着色することがあるが、これも傷んでいると誤認されてクレームなどの原因となることがある。

というわけで、今頃の季節はブロッコリーやキャベツなどが赤くなっていても寒さのせいだし、特に今年は生長も遅れているので価格は高めかと思うが品質は悪くないので何とか買っていただきたい。赤い部分を食べてもポリフェノールがたくさん取れたと言うことで、かえって健康にいいかもしれないので(栄養学の専門家には怒られるかな?)ご勘弁いただきたい。

なお、赤い野菜といえばトマトやニンジンなどを思い浮かべる方もおられるかも知れない。しかし、それらはアントシアニンではなく、カロテノイドという物質(群)である。トマトのほうは効酸化作用で有名なリコピンというカロテノイドが主成分で、ニンジンのほうはこれも機能性成分として有名なβ?カロテンである。β?カロテンはどちらかというとオレンジというイメージであるし、実際サツマイモやマスクメロンなどもそうであり、アントシアニンの赤とはずいぶんイメージが違う。こちらの赤には傷んでいるとか古いとかいうイメージはほとんどないが、アントシアニンだって機能性でも負けてはいないので、差別することなくいろんな野菜を幅広く食べていただけると非常にありがたい。

ただし、機能性の部分については、あくまでこれらは食品であるので過剰な期待はしないようにお願いしたい。←とってつけたような結び(笑)。