アグリサイエンティストが行く

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JAS有機と有機農業推進法・・法律同士で矛盾?

いささか旧聞に属する話だが、2006年12月に超党派の議員による議員立法で「有機農業推進法」が施行された。この有機農業推進法は、「この法律は、有機農業の推進に関し、基本理念を定め、並びに国及び地方公共団体の責務を明らかにするとともに、有機農業の推進に関する施策の基本となる事項を定めることにより、有機農業の推進に関する施策を総合的に講じ、もって有機農業の発展を図ることを目的とする。」とその第一条に規定されている。

簡単に言うと、国や都道府県の役割をはっきりさせて、有機農業推進のためにどのようにしたらいいか考えていくことで有機農業を発展させましょうということだ。この理念自体には特に異論はない。有機農業が法律を施行してまで積極的に推進すべきものかどうかという根源的な議論はとりあえず後回しにして、ではあるが・・・。

問題はその後である。第二条には「有機農業」の定義が以下のように記されている。
「この法律において「有機農業」とは、化学的に合成された肥料及び農薬を使用しないこと並びに遺伝子組換え技術を利用しないことを基本として、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した農業生産の方法を用いて行われる農業をいう。」
つまり、農薬も肥料も「化学合成されたもの」を使わなければ「有機農業」であると定義している。もし、有機農業というものを規定した法律がこれだけならこれはこれでいいだろう。しかし、有機農業というか、微妙に違うものではあるが「有機農産物」を規定している法律ならすでに別に存在する。「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律」いわゆるJAS法である。

JAS法の中には有機食品に関する規格があり、その規格に沿って有機JAS認証を取得したものでなければ「有機」や「オーガニック」などの表示をして流通させることはできない。では、JAS法の有機農産物の定義はどのようになっているだろうか。ここで法律の全文を記載することは現実的ではないので、要点だけまとめさせていただく。

1 使用禁止資材を使用しない
基本的には化学合成された農薬や肥料のことを指しているが、「施用することができる資材」が一覧表であげられており、「農薬」にも使用できるものがある。
2 使用禁止資材を2年以上使用していないほ場で生産されたもの
3 周辺から使用禁止資材が流入しないよう緩衝地帯を設けること

などがある(他にもあるが、今回のエントリーでは直接問題点と関係がないので割愛させていただく)。これらの条件を満たし、国に登録した登録認定機関によって認定された生産農家等が認定内容に従って生産した農産物のみが「有機」や「オーガニック」などの表示をして流通させることができる。

つまり、「有機農業推進法」の定義に従っただけではせっかく苦労して有機農業を行っても「有機農産物」であると表示して流通させることはできないのである。であるなら、「有機農業推進法」の第三条(基本理念)の2にある「有機農業の推進は、消費者の食料に対する需要が高度化し、かつ、多様化する中で、消費者の安全かつ良質な農産物に対する需要が増大していることを踏まえ、有機農業がこのような需要に対応した農産物の供給に資するものであることにかんがみ、農業者その他の関係者が積極的に有機農業により生産される農産物の生産、流通又は販売に取り組むことができるようにするとともに、消費者が容易に有機農業により生産される農産物を入手できるようにすることを旨として、行われなければならない。」は実現できないことになる。

この基本理念を実現しようとするならJAS法との連携は必要不可欠であり、第二条の定義は第三条と矛盾しているといわざるを得ない。これでは、現場の農家は混乱するだけではないか。

もし、「有機農業推進法」が化学合成農薬や化学合成肥料を使わない農業をやりやすくするための行政的な地ならしに特化した法律だとしても、その内容はあまりにお粗末である。最前線の行政担当者にしても、JAS法と矛盾しないようにするためにはどのような施策を行えばいいか頭が痛いに違いない。

有機農業はすばらしいぞ、もっと拡げていくことで農家・消費者双方の利益になるようにしたいと思う基本的考え自体は理解できるが、本気で有機農業を推進していくつもりがあるなら、有機農業推進法のあり方を至急見直していただくようお願いしたい。