アグリサイエンティストが行く

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食品安全委員会の委員を否決した野党議員のレベルの低さ

この記事はいつも情報が遅くて申し訳ないが、先ごろ参議院の本会議で、食品安全委員会の委員承認について、一人が否決された。この否決された委員というのが東大大学院教授で、プリオン専門調査会で座長を務めていた吉川泰弘氏である。参議院では与野党が逆転しているので、この否決については野党4党によるものだ。

この話をはじめに聞いたときは、中身をよく検討しなかったため私は、この人は東大教授でありながら科学的評価をしっかりしていないような姿勢を見せたのかな?と漠然と考えていたが、いろいろな記事をネット等で見るにつけ、これは大変なことだな、と思うようになった。いつもながら、自分の世の中を漠然としか見ていない姿勢に少々嫌気がさしているが、少しでもそれを取り返せるよう今後努力するしかない。

とまぁ、自分のことはとりあえず脇にどけておいて、話を進めたい。

この参議院本会議で野党4党が吉川氏の委員就任を否決した理由が、新聞記事によればプリオン専門調査会で米国の牛肉輸入再開に事実上道を開いた、というものである。また、それに付随する根拠として、中西準子独立行政法人産業技術総合研究所安全科学研究部門長がプリオン専門調査会を批判したことをあげているらしい。確かに、中西氏は以前ご自身のサイトでプリオン専門委員会を批判されていたが、中西先生はプリオン専門委員会が米国産牛肉のリスクが少ないとの報告をしたことを批判しているのではなく、リスクが少ないと報告して差し支えない検討内容であったのに、「米国がきちんとやればリスクは少ない」と責任を米国に投げかけてしまい、自らの判断を放棄してしまったかのような姿勢を批判したのである。
それに、プリオン専門委員会は牛肉の輸入再開を決定する機関ではない。データを集め、客観的にリスクがどのくらいであるかを調査して決定機関である農水省厚労相に報告するのが仕事である。輸入再開は、そのリスクの大小と政策上の様々な要因を比較検討して政府機関が決定するものだ。少なくとも、決定の責任が専門委員会にあるわけではない。ましてや、座長である吉川氏一人の責任で輸入再開が決定されるわけでもない。このことは、日本学術会議会長の金沢一郎氏談話のとおりだと思う。

もし、新聞報道がそのまま事実であれば、野党4党はそのあたりの事実認識を決定的に間違っているといわざるを得ない。もしくは、意図的に曲解していると思われても仕方がない。公式に、新聞記事になる発言なのに、どうせ国民は記事の内容まで読むことはないだろうと高を括っているのだろうか?だとしたら、あまりにも国民をなめているとしか言いようがない。とはいいながら、なめられてもしょうがないような態度をとっていたのも自分なのだが・・・。

とにかく、野党4党、特に民主党は大向こう受けを狙ってこういう態度をとったのであろうが、科学的判断を人気取りによって捻じ曲げる態度は政権を狙う立場の政党としてはあまりにお粗末である。表面的な雰囲気だけで説明責任を果たそうとせず、自分たちもよく理解できていないままに(としか思えない)こういう重要な人事を決定するのはどう考えても間違っていると思う。もちろん、吉川氏が食品安全委員会にふさわしい人物かどうか、自分に判断する材料はないので、結果自体が間違っているかどうかはわからない。だが、その過程における理由付けはまったく理由になっていないのである。

自分は、少々現政権に嫌気がさしており、とりあえず政権交代は果たしてもらいたいと思っているが、これでは積極的にそれを支持することはできない。もちろん、選挙対策にわけのわからない金の使い方をする自民党にお灸はすえなければならないが、政権交代してもやっぱり何も変わらなかったね、とならないようここでしっかりと気を引き締めなおしていただきたいものである。