アグリサイエンティストが行く

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COP10でEM菌

またしても他人のところから引っ張ってきたネタで申し訳ないが、大阪大学サイバーメディアセンター教授菊池誠氏のブログkikulogCOP10(生物多様性条約第10回締約国会議)のパートナーシップ事業として「EMで海・河川の浄化 全国EM団子・EM活性液投入」というものが計画されているらしいということを知った。COP10のサイトで確認したところ、認定番号もついているのでもう間違いないところなのだろう。COP10という「権威のある」会議のパートナーシップ事業として認定されているとなれば一般にはEMに対して化学的裏づけがあるものと認識されるだろう。

このサイトを運営しているのはCOP10支援実行委員会というところであるが、EMは土壌改良資材としてはともかく、水質浄化資材としては科学的にその効果は検証されていないはずだが、それについてはこのCOP10支援実行委員会では問題視しないのだろうか。これを基に「COP10で承認された」という宣伝がなされ、ますます全国の学校など地域活動で利用される事になり、「無駄金を使う」で済めばいいが、かえって環境に悪影響を与える事になった場合責任を取れるのだろうか。

EM菌は水中のヘドロを分解して水質を浄化するというが、仮にそのとおりの働きをするとして、分解した後の物質はどこへ行くのだろうか?ヘドロの実態が有機物だとして、分解されればアンモニア態窒素や燐酸などが水中に放出されるがそれは問題ないのか。また、EM菌の菌体自体も増殖するはずだが、それらは水質汚濁とは無関係なのだろうか。EM活性液は結構どろどろした色をしていると思うが、環境の水中に放出されたらきれいな透明になるとでも言うのだろうか?そんなはずはないのである。つまり、本当に水質浄化をしようというのならEM菌がヘドロをきちんと分解したとしてその分解物や増殖したEM菌の菌体を取り除かなければ根本的な解決にはならないはずだ。

さて、先ほどはEM菌がそれを推進する人々が主張するような働きをしたという前提でその問題点を指摘したが、それ以外にも問題点はある。まず、非常に単純に考えてEM活性液もEM団子もそれ自体は水質汚濁物質であるということである。主張どおりの効果が発揮できたとしても投入した時点ではCODやBODは投入される水域より高いはずで、一時的には水質は悪化すると思われる。それで効果が現れなければ水質を悪化させただけで終わる可能性もあるのだ。

つぎに、EM菌は乳酸菌などを組み合わせて利用した有用微生物群であるというが、それがいかなる環境でも有効に働き、一定の環境状況にしてしまうようなことが考えられるだろうか。自然環境の水域には様々な微生物がもともと繁殖しており、そこに後からEM菌を投入したとしてその量(微生物数)はたかが知れているし、それらが既存の微生物を押しのけて優先種になるなど常識的には考えがたい。もちろん、検証もせずに絶対にありえないなどとは言えないが、もしありえるとしたらそれは環境を激変させる恐ろしい生物兵器として応用できるのではないか?それに、EM菌がバランスよく繁殖している状況が必ずしも「きれいな水環境」であると言い切れてしまうというのにも「水からの伝言」に通じる違和感を感じてしまうのだ。農耕地の土壌環境に限ってしまえばそれもわからないでもないが、EMが水環境を改善するというのならEM菌が優先菌種として繁殖している水環境が「きれいなもの」であるという実証は必要だろう。

いずれにしても、EM菌で水質浄化というのは科学的手法で実証されたものではない。それをCOP10などという公の場で正式に認定された事業として行うというのはどう考えても納得できる話ではない。生物多様性というCOPの趣旨にも反しているようにも思える。ぜひとも、COP10支援実行委員会には納得の行く説明をお願いしたいところである。