アグリサイエンティストが行く

農業について思ったことを書いていきます。少しでも農業振興のお役に立てれば。

新しいガジェット導入 ASUS Chromebook C425TA レビュー

最近更新が滞っていますが、職場が変わって随分しんどい思いをしているので、農業ネタはしばらくお待ちいただきたいがんちゃんです。

 

さて、最近になってネットをちょっとでも快適にしたいのと、AndroidアプリをPCで使ってみたいのとでChromebookなるものを導入してみました。ASUSのC425TAです。

www.asus.com

 

自分にとってはノートパソコンとタブレットの中間みたいなもの、という認識です。アンドロイドアプリが動き、スマホではやりにくい諸々ができること、キーボードが付いているので、長文を打つには楽なことなどが購入のきっかけです。あと、謳い文句としてはセキュリティがしっかりしていて、動作が軽いというのもありますので、それも期待してのことでした。

ネットなど動作は宣伝文句の通り速くて快適。ただ、スペックの割に安かったことに釣られて、C425TAを選んだんですが、英文キーボードのモデルでした。まぁ、ローマ字入力なのであまり問題ないかなと思っていたら、かなりキー配置に癖があって、ちょっと苦戦してます。キートップの表記と()の位置がずれてたりキートップに+(実際にはshift+;)の表記がなく、どうやって打つんだとしばらく悩まされたり、どこにも_(アンダーバー)が割り当てられておらず、日本語入力から変換で出すしかできません。いろんな補助入力に結構アンダーバーを使っているので、これはちょっと困ります。なにかやり方があるのかもしれませんが、自分の検索能力ではなかなか…(;´∀`)

 

筐体はこんな感じです。「(」はキートップには9の上に表示されていますが、実際はshift+8です。「)」はshift+9なんですよ。混乱しますよね(;´Д`)

あと、エンターキーが横長であまり大きくないので、よくミスタイプします。シフトキーや「キーをタイプしちゃったりしています。キーのタッチ自体は非常に小気味よく、打ちやすいので残念ですね(;´∀`)

それから、タッチパッドが大きすぎて、その両脇に手のひらを置いてタッチタイピングをする自分には邪魔です。タイプしていて、ついクリックしちゃうことが多く、それを避けてタイプできるように感覚を修正していますが、なかなか大変ですね。

 

でも、スクリーンがタッチパネルなのは非常に便利です。スマホと同じく感覚的に操作できるのはいいですね。あと、このモデルの美点としては、ディスプレイの発色が良く、エッジの出方もよく、画像などがきれいに見えるというところがあります。動画も写真も、メインマシンのWindowsPCよりはっきり良いです。次にWindowsPC買い換えるときはASUSがいいかも…。

 

それから、Androidスマホと連動して、いろんな事ができるようです。Bluetoothで連携し、ロック解除されたスマホが近くにあればパスワード無しで起動できたり、Bluetoothを介して簡易デザリングも可能だとか。いまはスマホが通信容量の少ないプランなので出先でChromebookを使うことがあれば容量を増やして試してみたいところですね。

 

これから、Android用の動画編集アプリやRAW現像アプリを入れて使い勝手を試してみようと思っています。泊まりのロングツーリングをしたときなんかに写真の現像やブログのアップができるようになるといいな〜なんて思っています。

 

現時点でわかっていることをまとめると

*長所

・起動が早い。

・各種動作も速い。

・ネットブラウジングも速い。

スマホとの連携が良い。

・(このモデルは)ディスプレイがきれい。

・キーボードのタッチが気持ちいい。

・やっぱりタッチパネルは快適。

 

*短所

→このモデルについて

・英文キーボードは日本語入力にはかなり使いづらい。

タッチパッドが大きく、ブラインドタッチにはすごく邪魔。

・ディスプレイが大きいので仕方ないが、普通のノートPCと重さが変わらない。

クラウドベースが前提なので、内蔵記憶媒体の容量が小さい。

 ↑SDメモリーカードを追加して解決

 

色々書きましたが、ともかく各種動作が早く、待たされるストレスが少ないことがすごく快適で、写真現像とOffice使いたいとき以外はWindowsPCを使う気にあんまりなれないくらいです。価格も安いので、Officeもとりあえずデータが見られていじられれば少々使い勝手が悪くても良いというのなら、コスパは非常にいいのでおすすめです。

これで、RAW現像アプリが使い物になるレベルならますますWindowsPCの出番はなくなるでしょう。

 

ともかく、これからChromebookを検討してみようかな、という方は日本語入力が大事なら日本語キーボードのモデルを選んでくださいね。そこだけクリアできたら、ASUS C425TAはおすすめマシンです。

Shinshinoharaさんによる「なぜ日本は化学農薬を手放せないのか」について

いささか旧聞に属するが、TwitterでShinshinoharaさんという方がnoteで「なぜ日本は化学農薬を手放せないのか」という記事の公開を告知されていたので、読ませていただいた。Shinshinoharaさんは、農業関係の研究機関に属されているようで、おそらく専門家であり、そういった立場からの発信であることは十分理解できる。ただ、内容については概ね同意であるものの、若干説明不足な点が気になったので、少々補足させていただきたい。

note.com

 

それでは、行ってみましょう。

農夫からのワンポイントアドバイスの写真

フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com)

 

―引用開始
欧米や中国は大陸性の気候。ざっくり言うと、湿度が低く気温も低め。すると、虫がそもそも少ない。農作物をダメにする病原菌も少ない。湿度が低く気温が低い条件は、有機農業が容易。だって、虫や病気の発生が少ないから。
―引用終了

 

ほとんどその通りで、Twitterなどで情報発信をする場合は字数制限があるので、こういう書き方になるのは仕方がないと思う。しかし、こういう形では少々説明不足かと思う。なので、補足させてもらいたい。
この文章だと大陸であればほぼこんな条件なのかと誤解されそうに思える。ヨーロッパも中国も大陸であるがゆえに広大な土地があり、色々な農業品目に対して、それぞれ適地が必ずと言っていいほど存在するとはいえるが、すべての地域が農業に適しているわけではない。気温であり、湿度であり、水の便や土壌条件も関係する。他の項での説明を見るとこういう点にも触れておられるし、理解もされているのはわかるが、少し言葉が足りないように思えた。

 

―引用開始
日本はそうはいかない。代表的なのは梅雨の時期。雨がずーっと降る。しかもそこそこ高温。高温多湿は虫とカビにとってパラダイス。虫がいくらでも湧く。カビがいくらでも繁殖する。無農薬でやろうと思うと、虫とカビをどうやって抑えるかが大きな課題になる。
―引用終了

 

一般的には(もちろん例外も多数あるが)、病気は湿潤傾向で、害虫は乾燥傾向で被害が増加しやすい。他の項目での説明にもあるが、農地環境における雑草の存在が特に害虫の温床となり被害が増えやすいという意味では、梅雨時期の雨の多さによる雑草の増加(雑草そのものの繁茂の促進と雨による除草作業の困難さなど)はもちろん大きな要因ではあるが。Shinshinoharaさんも説明されているように、中国の特定地域では潅水によって水が届いている範囲しか雑草も生えることができず、そもそも雑草の種子がほとんどないためそこで生育する害虫もほとんど存在せず、乾燥地帯でも害虫がほぼ発生しないということからもその考え方は補強されるかもしれない。
逆に、大陸に属していても高温多湿の東南アジアでは農薬の頻繁な使用により、病害虫に農薬に対する耐性が発達し、薬剤防除を困難にしているという事態に陥っている例もある(これも別項で記述がありました)。
それはともかく、ヨーロッパや中国のように簡単には農薬を減らすことができないということ、その理由については、Shinshinoharaさんの説明は正しく、とっつきやすくわかりやすい点は良いと思う。

 

―引用開始
有機農業で虫食いを避けようとすると、三つくらい対応方があるかもしれない(それ以外があったらご指摘よろしく)。一つは、虫に食われた葉をもいで、虫のいないところだけを出荷する。二つ目に、昔で言う旬の季節に育てる。害虫被害が比較的少ない季節に。
―引用終了

 

虫に食われた葉をもいで、というのはかなり厳しい。基本的な対策というよりその他の対策を十分行ったうえで最終手段として行うものかなと思う。というか、おそらく出荷段階では必須に近い作業になるのではないだろうか。
それから、昔でいう旬の季節というと、自然の気温で育てることができる時期ということになると思うが、夏野菜だとどうしても病害虫が発生しやすい季節を避けることはできない。肥料をやりすぎず不足にもせず、手入れを怠らず、逆に手入れしすぎて株を弱らせることなく植物を健全に保つことができればそれだけで病害虫はある程度低減可能ではある。そういう意味では「旬の時期」に栽培をすることはいい部分もあるが、品目によっては難しい部分も出てくるだろう。その部分については、いろんな要素を総合的に勘案して減農薬にもっとも向いている栽培時期や方法(作型ともいう)を決めるべきだろう。

 

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―引用開始
もう一つの方法は、防虫ネットのあるハウス内で栽培することだと思う。これなら、気をつけさえすれば害虫の侵入を防ぐことができ、農薬を使わずに済む。ただまあ、虫というのはご馳走のありかを実に見事に見つけ、侵入するのでやはり大変。また、ハウスの設備費も必要。
―引用終了

 

開放部に防虫ネットを使用したハウスを使う、というのは耕種的防除(栽培上の工夫によって病害虫を低減すること)においては常套手段であり、「農薬を使わずに済む」は言い過ぎかと思うが、それ以外はほぼその通りと言える。また、屋根部分だけビニールを張ることで雨を避けることができ、降雨による病原菌の拡散を防ぐことができることに加えて、必要以上に水をやらないことで畝部分以外の雑草を抑制することでも害虫の侵入やハウス内での増殖を抑制することができる。しかし、最近は材料費の高騰もあってハウスの新設や維持はかなり経費がかさむ状況になってきている。

 

―引用開始
私は、有機農業の手前に、「肥料はすべて有機肥料だけれど、化学農薬はほんのちょっぴり使わせて」という農業を「循環型農業」として位置付けるの、アリだと思う。化学肥料をやめるのは技術的に比較的容易。でも、化学農薬をやめるのは、高温多湿な日本では厳しい。
―引用終了

 

この部分に関しては、諸手を挙げて賛成したい。コストを考えなければ、化成肥料を有機質肥料に置き換えるのは技術的には難しいことではない。ただし、有機質肥料の場合、必ずしも植物に対して理想的な養分バランスとは言えず、色々な有機質肥料を使ってもバランス良く配合することはなかなかに難しい。そのバランスの部分を化成肥料で補ってやるというのが自分的には理想なのではないかと思っている。ただ、コスト以外にも有機質肥料は一般的には化成肥料に比べて養分含量が少ないため、栽培に必要な肥料の絶対量(重量)は多くなる。そのあたり、化成肥料の方が省力的ではある。その辺のバランスを考えると、有機質資材による土づくり+化成肥料&有機質肥料で労力と環境影響の最適化を行うのが良いのではないかと思えるが…。

 

―引用開始
これは微生物農薬を使った栽培にも言える。微生物農薬も、屋外栽培(露地栽培)だと、土着微生物に駆逐されて、病原菌をやっつける微生物がいなくなってしまい、効果が出ない。外部の環境と若干遮断した、防虫ネットのハウス栽培が有効。
―引用終了

 

「微生物農薬」に限って言うと、ハウス内でも持続的効果はそれほど望めない。うどんこ病予防に使われる微生物農薬も、暖房用のダクトを使って散布する方法の場合、継続して散布を続ける必要があり、散布を中止すると環境によってはてきめんにうどんこ病がまん延した、ということも起こりうる。土壌伝染性の病害を低減するためにもつかわれる「土壌改良用の微生物資材」のことを指しているのであれば、継続して土づくりをすることで環境を維持することはできる。一度散布したら延々と働き続けるというのはどちらにしても考えにくいが、露地栽培においても適切にたい肥を施用することで、有機質を分解する菌が継続して増殖し、一部の土壌伝染性病害を抑制するというのはありうることである。

 

―引用開始
カビの中には、マイコトキシンという猛毒を作るものがあることで知られる。マイコトキシンは、発がん性においてトップクラスの猛毒。化学農薬の害よりはるかに有毒。カビで被害が出るくらいなら、化学農薬をかけた方が、毒性でははるかにマシ。
―引用終了

 

カビ毒については、申し訳ないが自分はあまり詳しくない。しかし、こういう事例があるということを紹介している点はいいことだと思う。ただ、植物が病虫害を受けたときに植物内に生成されるファイトアレキシンについても、専門的な解説はともかく触れていただけるとさらに良かったかなと思う。

 

―引用開始
長く打ち続いたデフレ経済で賃金が低下、収入が低くなり、農作物を高く買う余力が消費者にない。コロナの影響で飲食店に高級食材を出せなくなり、それも追い打ちをかけている。有機農産物を高く買ってもらうこと自体が困難。
―引用終了

 

これは、本当にその通り。構造的に「普通に農作物を作って売っている」だけでは有機栽培でなくても、現状では生活が成り立たない。デフレのおかげで消費者も使えるお金が減っている。その中で、食費も当然出費が抑制される対象となる。そういった状況下で売り方や農業経営の体制に工夫を凝らし、単価の向上や経費の削減に成功している農家だけが儲かっているのが現状だ。儲かってない農家は工夫が足りないのが悪いのではなく、儲かっている農家が頭一つ抜きんでているからこそやっていけてるだけで、みんなが工夫してみんな同じになったらみんな儲からなくなるだけだ。

 

―引用開始
日本は、国民が貧乏なために、化学農薬を使った慣行栽培で安い農作物を生産することを強いられている面がある。しかしそのために農薬の基準を厳しくするわけにいかなくなり、海外でいい加減な農薬の使い方をした農作物が日本に集中的に流れ込むリスクが出てきている。
―引用終了

 

これについては、少々異論を唱えたい。Shinshinoharaさんはけっして農薬が危険であるとは言っていない。だが、この部分だけ読んで「やっぱり農薬は危険なのだ、農薬を使用しない有機栽培でなければならない」と理解してしまう頓珍漢が現れてしまう危険性がある。貧乏でなくても、国土の狭いこの日本で食糧自給率向上や安定供給を続けるためには、やはり農薬を適切に使った慣行農法がメインであるべきだと思う。その中で、農薬不使用にはこだわらないが、農家自身の経営や省力化のために農薬を減らす工夫は続けていくことが大切なのではないだろうか。
農薬の使用基準も、これでは現在のものが緩いという印象になってしまう。今の基準でも、その基準値の決め方や、実際に使われている成分濃度を見た場合、現場で農業と向き合っている技術者の立場からするとその厳しさには閉口する。そのような制度なのは理解できるが、少々文句を付けたくなるくらいである。そんな、いろんな農作物でたまたま同じ農薬が使われ、たまたますべてが残留基準値ぎりぎりで、たまたまそれらを同じ日にいっぺんに食べるわけがないやろ!たまたまそういう日があったとして、一回くらいADIを超過したからと言って、健康被害など起きるかい!と時々叫びたくなる。
もちろんそういう安全かどうかをわきにどけておいて、厳しければ厳しいほどいいという主張なのなら別だが。

 

―引用開始
貧しくなった日本国民は、そうした海外の安い農産物を買うしか、生活防衛できなくなり始めている。すると国内農産物が売れなくなり、価格が低迷。よけいに化学農薬を使って安く農作物を作る必要が出て…まったくもって悪循環。日本農業を変えるには、国民の所得水準を上げることが必要。
―引用終了

 

これまでの前提を無視して、「よけいに化学農薬を使って」という部分を除けばこれは本当である。国産農作物にとって、物価の安い国からやってくる、輸送費を入れても安価な農作物は脅威だ。その一つの解決策としては、高くてもいいものは躊躇なく買える所得水準だろう。むやみな「国産信仰」もどうかとは思うが、いいものなら高くても買う、となれば有機栽培による付加価値も含めて農家が手間暇かけても「いいもの」を作ろうとするだろう。こういう言い方は自分としてはちょっと引っかかるものはあるが、日本人としては、国内の農家誰もが高度な技術で作られた品質のいい農作物で勝負できる、そういう世の中になってほしいと願っている。

 

色々文句の方が多かったですが、私にも至らぬ点は多々あろうかと思います。そのうえで問題提議をしていただいたShinshinoharaさんには感謝申し上げたいと思います。

種苗法5 表示の義務化、特性表、訂正、判定制度の導入など

よーし書けたぜ。いよいよ送信だ…(スマホでは書いていません)f:id:gan_jiro:20210311224923p:plain

フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com)

 

さて、種苗法の解説も5回目(昨年のも含めると6回目)となりました。主要な部分についてはあらかた説明し終わったと思いますので、残りは飛ばしたり、簡単にまとめたりしたいと思います(手抜きと言わないで)。

 

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※改正種苗法について~法改正の概要と留意点~19ページより

種苗法3 国内の栽培地域指定について」のところで、登録品種であることや、栽培地域に制限があることを表示する義務ができたことはお話ししました。これは、広告や展示を行う際にはこれらの項目を直接種苗に添付したり、種の入った缶や袋などに表示しなければならない、としたものです。表示例などについては画像または農水省のpdfをご覧いただきたいと思います。

 

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※改正種苗法について~法改正の概要と留意点~22ページより

登録手数料や出願料、登録料についてはこのブログの趣旨とはずれると思いますので、割愛させていただきます。

 

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※改正種苗法について~法改正の概要と留意点~23ページより

ここは結構重要な改正かと思います。登録品種の侵害(許諾なしに栽培した場合で、違う品種として販売されている場合など)が行われている場合、改正前は比較栽培での確認が必要でした。しかし、これでは確認に時間がかかり、その間の侵害に歯止めをかけることができません。そこで、登録出願時に登録品種の特性を詳細に記録することで、その特性表と侵害疑義のある種苗を比較することで同一性の判断が迅速に行え、侵害立証を容易にすることができます。育成者の権利侵害を最小限にとどめやすくなるというわけですね。


また、この特性表は出願者が特性表を通知されてから30日間に限り、訂正を求めることもできます。ただしこの訂正は、訂正に係る比較栽培試験について、実費を出願者が負担する必要があるうえ、願書にこの項目は重視したいと記載した形質等に限られます。

 

残りの項目(職務育成規定等)は、申し訳ありませんが当ブログで説明すべきこととはちょっと違うように思われますので、興味がある方はお読みいただければと思います。

 

以上、種苗法の要点について改正部分を中心にご説明させていただきました。まだまだこの話題はくすぶり続けるかもしれませんし、この種苗法が本当に理想的なのかはまだ自分に判断しかねますが、悪くはないと思っています。そして、本当に農家の利益になるのはどういうものなのか、皆さんにもよく考えていただければ幸いです。

種苗法4 「登録品種の増殖は許諾に基づき行う」

さて、4回目となる今回は農水省のpdf改正種苗法について~法改正の概要と留意点~11ページの項目から、「3 登録品種の増殖は許諾に基づき行う」についてのお話です。


以前のエントリー「農家さん、ご心配なく。種苗法の一部を改正する法律案についての解説」で自家増殖一律禁止などの誤解についてはすでに解説しました。今回はその他の細かい注意点などについてお話ししたいと思います。

ちょっと横道にそれますが、自家増殖の禁止(許諾制への移行)を反対されている方が懸念されている状況への説明は、農水省のpdfにもありますので、そちらも紹介しておきます。ここは、上記のエントリーで自分も同様の説明をしたかと思います。

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 ※改正種苗法について~法改正の概要と留意点~6、7ページより

 

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※改正種苗法について~法改正の概要と留意点~17ページより

 

では、話を戻して上のスライドから順を追って説明しましょう。


「登録品種については、農業者による増殖は育成者権者の許諾を必要とする」とあります。ここが以前問題となった部分ですね。これまでは農業者は自分の経営に用いる限り自由に増殖を行うことができていました。それが許諾を得ない限りできなくなったわけですね。


しかし、発明品などの特許を考えればわかりますが、多大な労力と費用をかけて開発した品種の優良種苗が簡単に無料で増殖可能なのであれば開発者が新品種を育成するメリットがなくなります。これが、国や都道府県などの公的機関が育成したものなら公共の利益のためにそうすることもわかりますしむしろ(状況に寄りますが)当然とも言えますが、民間の種苗会社は利益を出すことができません。なので、今回の改正は極めて妥当なものと思われます。
(F1品種など、実際には親と全く同じものを増殖するのは技術的に不可能に近い場合も多いのですが、それは今回の主題からは外れますので脇に置いておきます)

 

今回の改正において、許諾を行う際に農業者に対して適正な利用条件の提示等が行われるため、種苗の増殖が技術的にも適正に行われやすくなるというメリットもあります。例えば、イチゴなどは種子を使わず、親株の植物体の一部でであるランナー(匍匐茎)を使っての増殖になるため親がかかっていた病原ウイルスなどを完全に除去することはできません。そこで、公的機関や種苗会社などがバイオテクノロジーの手法を活用してウイルスフリー株(無病株)を養成するわけですが、およそ3年に一度の割合で親株を更新していかないと栽培の現場ではどうしてもまたウイルスにかかってしまい、品質や収量の低下を招くことになるので、そのような技術的条件を示しておくことは重要になります。

 

前回のエントリーでも触れさせていただき、たびたび例に挙げて申し訳ありませんがイチゴなど購入した親株から苗を増殖するのが普通に行われている品目で都道府県が独自ブランドでしのぎを削っているような場合、地域農協に自家増殖まで翌年以降の親株にすることまで含めて一括して許諾し、生産者の事務手続きなどの負担を軽減しているような例もあります。これは改正前の従来法でも同じ扱いでした。

 

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フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com)

 

もちろん、育成者が許諾を必要とせずに自家増殖を認める場合、育成者がその旨を明示すれば従来通り制限がかかりません。この場合だと従来法と何ら変わることはないわけですね。

 

一応、今回も念押ししておきますが登録品種以外の一般品種(期限が切れた登録品種も含まれる)では、従来と変わらず、自己増殖は自由に行えます。

 

さて、今回は一気に最後の項目まで説明できればと思っていましたが、またしても話が長くなってしまったので残りは次回で…終わらせたいなぁ(泣)

種苗法3 国内の栽培地域指定について

さて、ここまで種苗法の存在意義と海外持ち出し制限、その根拠となるUOPV条約について解説しました。今回は、農水省のpdf改正種苗法について~法改正の概要と留意点~11ページの項目から、国内の栽培地域指定についてとそれ以降の項目について順を追ってやっていきたいと思います。

 

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※改正種苗法について~法改正の概要と留意点~15ページより

 

国内の栽培地域指定とは、最近よく言われている地域ブランドの確立を特定の品種を用いてやる場合など、産地形成と地域振興に資するものとして作られたものです。従来法でも、特にイチゴなどの果物で顕著ですが地域ブランドの確立に各都道府県などが新品種を育成した際、地域の農協などのみと許諾契約をすることで、その農協所属の生産者以外への種苗引き渡しを制限し、実質的に地域制限と変わらない状況にするという事例がありました。

 

今回の栽培地域指定は、品種登録出願時に栽培地域に制限をかけたい場合に、栽培の可能な地域を指定地域として届け出を行うことでそれ以外の地域への栽培を制限するものです。従来法のようなややこしいことをしなくても産地形成を行いたい地域でしか栽培ができない状況を作ることができるようになりました。ただし、指定産地外でも許諾を受ければ栽培可能です。

 

これに伴い、種苗業者は種苗を譲渡する際にその種苗が登録品種であり、指定地域外での栽培に制限がかけられていることを表示する義務ができました。のちに出てくる登録品種の表示の義務化でまた詳しく説明したいと思います。

 

なお、登録出願者が栽培地域の制限を行う意思がない場合は指定地域の届け出をしないことでどこでも栽培可能にすることもできます。育成・出願者が国である場合は国内で制限をかけられることはないと思われますが、都道府県の場合は地域ブランドでしのぎを削っていますので、多くの場合県内を指定地域にすることが予想されます。民間の種苗メーカーの場合は特殊な場合を除き、多くの売り上げを上げることが主眼に置かれるので、栽培地域の指定は行われない場合が多いでしょう。

 

というわけで、今回はここまでとさせていただき、次回は「登録品種の増殖は許諾に基づき行う」部分について、以前の「農家さん、ご心配なく。種苗法の一部を改正する法律案についての解説」でお話しできなかった実務的な部分について触れていきたいと思います。

agriscientist.hatenablog.jp

種苗法改正について2 UPOV条約と海外持ち出し制限

今回のエントリーは前回の続きです。今年度行われる種苗法改正施行について、どのような目的でどのような改正が行われたのかをお話ししてみましょう。

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agriscientist.hatenablog.jp

 

農水省のpdf8ページ目に「我が国で開発された優良品種の海外流出」という表題がつけられています。ここでは、ブドウのシャインマスカットという品種が普通の販売を通して海外に持ち出され、向こうで独自の品種名をつけられたうえで販売されるという明白な育成者権の侵害が起こっていますが、これまでの種苗法では違法にはならず、取り締まることはできませんでした。

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 ※改正種苗法について~法改正の概要と留意点~8ページより

 

そこで、育成者権を守りやすくするための改正が行われ、その一部がとある方面で問題視されましたが、特に問題となるわけではないということは以前お話ししたとおりです。

 

しかし、以前から「農家による自家採種の禁止」のみが話題になり、他の改正部分についてはあまり知られていないように思われます。今回の改正は令和3年度と4年度の2回に分けて施行されますが、3年度が6項目、4年度が3項目施行となっています。その他細かい項目もいくつかありますが、それらは状況に応じて説明するか考えたいと思います。

 

農水省pdfの11ページ目、この番号に沿って順番に行きましょう。まずは「1 輸出先国の指定(海外持ち出し制限)」についてです。

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※改正種苗法について~法改正の概要と留意点~11ページより 

 

ここで、UPOV条約という国際条約が出てきます。その全文はここ(pdf)に掲載されていますが、これを全部読んで理解するのは大変ですし、ここで理解する必要もありません。ですので、要約して説明したいと思います。簡単にまとめた図(pdf)がありますので、こちらを参照しながらご説明いたします。

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※151208UPOV条約概要.pptxより

 

UPOV条約には71年条約と91年条約が併存していて、どちらも、植物の新品種を統一された内容で国際的に保護しよう、という基本理念は同じですが91年条約のほうが保護期間が長く、適用される植物種に制限がないという部分でよりその内容が強化されたものとなっています。

 

ただ、このUPOV条約に批准しているだけで海外での育成者権が守られるわけではなく、あくまで加盟各国の品種登録制度によって守られることになりますので、種苗の輸出を行う際には相手先国での育成者権の取得が必要になります。日本でもこの条約に適合した品種登録制度の整備が必要であったため、そのためもあって種苗法が制定、施行されました。

 

海外での無断増殖を防止するにはこのUPOV条約に基づいて相手先国で育成者権を取得すればいいのですが、条約に批准していない国もありますし、加盟国であれ種苗を輸出するのでもなければそういう登録の手間や金銭的負担を考えれば意味があることとは思えません。一応、農水省中国における育成者権の取得マニュアルそして韓国版も作成していますので、参考までにリンクを張っておきます。(実は、私はまだ精読していません)。

 

UPOV条約の説明が長くなりました。ともかく、これまでは条約加盟国であるなしにかかわらず、外国での日本国内育成品種の無断栽培及び生産物の逆輸入などが起こりました。その結果、取り締まりができなかった従来法を改正し、国内品種の海外流出を防止するのがこの「輸出先国の指定(海外持ち出し制限)」なのです。

 

今までの種苗法では、登録品種の種苗が「販売後に」海外に持ち出されることは違法ではありませんでした。つまり、適法に増殖された種苗が一般的な種苗店で販売され、それがこっそり海外に持ち出されてもそれ自体を取り締まることができなかったのです。また、以前取り上げた農家による自家増殖についても、それ自体は農家が自身の経営に利用する限り違法ではなかったため、それを勝手に(外国人を含めて)譲渡されてもわかりにくい状況でした。それらを取り締まることができるのがこの改正部分(輸出先国の指定)のポイントです。

 

内容としては、品種登録出願時に届出を行い、UPOV条約加盟国から指定国を選んで届け出ることで、それ以外の国に対しての輸出には制限がかけられます。「指定国なし」にした場合はすべての国への輸出が制限されます。届け出をしなかった場合は、加盟国以外への輸出のみ制限されます(従来法と同じ)。また、以前から話題になっている自家増殖の制限(許諾制)についても「こっそり譲渡」を防ぐためにも重要なのです。

 

そのほか、農林水産大臣に対し、登録出願や登録公示と同時に利用条件を公示することが課せられたり、業者が種苗を販売する際にそれが登録品種であること、海外への持ち出しに制限があることを表示することが義務化されました。

 

以上が今回の種苗法改正における、種苗の海外流出の防止に資する改正点です。また非常に長くなりましたので、次回に引き継ぎたいと思います。

種苗法はなんのために存在するのか、そして改正法の要点は?

種苗法改正について以前のエントリーで取り上げ、登録品種の自家採種は原則禁止になる、というのは一般的な生産者にとっての不利益はまずありえないということを解説させてもらいました。その後、一部の条文について施行(令和3年4月1日)が近づいていますが、未だにいろいろな話がくすぶっているのが現状です。そこで、それを解消するための役に立つかはわかりませんが、今回から何回かに分けて種苗法改正条文にとどまらず、種苗法の内容やその存在意義について解説してみたいと思います。ってこの先どういう展開になるか、今のところ自分でも読めません(@@;)

agriscientist.hatenablog.jp

 

まず、種苗法の存在意義についてのお話から。全体の解説として、一般には農林水産省が公開しているpdfがわかりやすいかと思います。ていうか、よくできていると思いますのでこれ読め!で話は終わるところですが(笑)そうもいかないのでこのpdfをベースにポイントごとに解説を試みる、というスタイルでやっていってみましょう。

※これ以降、スライドの画像は農水省のpdf「改正種苗法について~法改正の概要と留意点~」より引用

 

まず、「種苗法改正の背景」という項目から始まります。「優良な新品種が支える我が国農業」とあります。よく言われるように、日本は面積は狭いものの東西にも南北にも長く、気候も土質も様々です。その中で、優良な農作物を作るためにはその環境に合わせた性質を持った新品種を育成する必要があります。また、(外国に比べて特に優れているかは置いておいて)日本には豊かな食文化があり、それらに対応するためには特色のある品種を多数育成する必要があるわけです。

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※改正種苗法について~法改正の概要と留意点~2ページより

 

例えば、日本にはほぼキュウリの品種育成のみを専門とした種苗会社が複数存在するほどで、それぞれ十数種もの登録品種を常にラインナップしています。私はキュウリの栽培指導を担当していた経験もありますが、すべての品種についてその特性の把握はおろか、名前すら覚えきれませんでした(自慢にならない)。

 

これら最新の登録品種は、耐病性などこれまでにない特徴を持っている場合が多く、生産者や産地が他との差別化を図るための役に立つことが多いといえます(もちろん、逆に懐かしさを活かしたり地域特産として古い一般品種を使う方がより戦略的に有利ということもあり得ます)。

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 ※改正種苗法について~法改正の概要と留意点~4ページより

 

ちょっと脱線しました。
ともかく、これら新しい登録品種の育成には多大な労力と資金が必要で、特に最近はその特徴が細分化されていますから、膨大な交配の組み合わせをしてみて、優れた形質のものができても既存品種と区別がつかないなどの理由で廃棄されたものも無数にあります。それだけの手間と資金を投入して作られたものですから、登録品種としての期限(野菜などでは25年)が切れるまでにその投資を回収しなければなりません。しかも、市場投入した品種がすべて売れるとも限りません。なので、どうしても種苗代金は高くなりがちなのです。ですから、なおさら育成者権を守り、その利益を確保する法律として種苗法は必要なのです。

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 ※改正種苗法について~法改正の概要と留意点~5、6ページより

 

ちょっと長くなりそうなので、今回はここまで。次回からは改正のポイントについてお話ししたいと思います。