アグリサイエンティストが行く

農業について思ったことを書いていきます。少しでも農業振興のお役に立てれば。

知的障害者による農作業支援が始まっている!

2年ほど前から、私の勤務する地域では知的障害者の方々による農作業補助を斡旋する事業が始まっている。


これは、県が事業として推進しているもので、JAと協力して知的障害者福祉施設(小規模作業所など)に農家の希望を調整して農作業補助を斡旋するものだ。


従来、ごく短期の臨時労働力についてはシルバー人材センターがよく利用されてきた。もちろんシルバー人材センターの皆さんもほとんどの人はまじめによく働くし、短期に安く使える人材として農家には非常にありがたいものだ。


しかし、シルバー人材センターは当然のことではあるが、時給制である。農家が負担する費用は時間×人数×時給単価となる。これだと、同じ量の仕事をしてもらうにもそのときやってきた人の適性によって効率が変わり、例えば野菜類の収穫作業を頼んだ場合、同じ品目で同じ1aで同じ人数でも1時間ですむこともあれば3時間かかることもある。農家としての売り上げは同じなのに支払う人件費は3倍も違ってきてしまうのである。熟練した同じ人を毎回頼めるのなら良いが、そうもいかない場合のほうが多いだろう。なので、そのときそのときの運不運が結構出易い。


これに対して、障害福祉施設を活用した作業支援では作業単価が面積あたりで設定されている。もちろん、作業内容によって単価は変わってくると思うし、現時点では内容がまだ流動的であるのではっきりとここには書けないが人件費としては格安になる。というのも、絶対的単価も安めに設定されているのもあるが、面積単価であるため作業を請け負った施設が人員を何人連れてきても支払額は同じになるのである。1aの作業を5人でやってきて2時間かかっても、20人でやってきて30分で終わっても同じである。つまり作業が速く終わるか終わらないかという違いはあるものの、農家の経済的負担は変わらないわけである。


また、知的障害者に農作業は可能なのかという心配をされる向きもあるかもしれないが、一口に知的障害といっても様々なレベルの人がいる。私の長女(プロフィール参照)のようにまったく言葉を解さず、せいぜい物を運ぶ、右のものを左へ動かすくらいしか出来ない人から、ちゃんと説明すれば条件によって内容が変化する作業をしっかり理解してできる人まで様々である。このため、依頼を受けた施設のほうでは作業内容によってそれに適応した人材を連れてくるのである(ここで難しいのは知的レベルが高いからといってより複雑な作業に適応しているとは限らないことだ。ほとんどの施設ではそこをきちんと見極めてきてくれるのであるが)。


また同時に、施設の職員など作業者の性質を理解した指導者が必ず監督者としてついてくるので、監督者さえ作業内容を理解してくれれば、農家がずっとその場を離れずにいなければならないということはない。


労働単価は安いが、福祉施設側としては仕事があるということ自体がすごく助かっているようである。当然農家側としても、例えばニンニクのようにその他の栽培期間中はそれほど仕事がないが、植付と収穫作業に大きな負担がかかるためにそれが栽培面積を拡大できないボトルネックとなっているような場合、このような作業支援を利用することでそれが解消され、栽培面積を拡大することが可能になる。もちろん、そのような実例もあり、農家の収益増につながり非常に喜ばれた。


ニンニクの収穫は、葉の部分を適当な長さで切り、引き抜いて畝の上に並べ、ある程度乾かしてからコンテナ等に入れ、ほ場外へ持ち出す。この作業のうち、抜いてコンテナに入れ、ほ場の外へ持ち出すところまで福祉施設の人員にやってもらうわけである。葉を切る作業は刃物を使う上、長さにもある程度気を使うためこれは農家が行なうのであるが、結構な重量野菜であるニンニクをほ場外までだけとはいえ運搬してもらえるのは非常に作業軽減につながるのである。また、ニンニクでは植え付け作業も結構重労働なので、これも作業支援を活用すると好都合である。最大のニンニク産地である青森県のように機械化できれば良いが、土壌性質の違いや品種の違い(規模も違うが)などから瀬戸内や西南暖地では機械化がそれほど効率的ではないのである。


このように、農地利用の集積化にも役立つ新しい流れが始まっている。この知的障害者福祉施設などによる農作業の支援が拡大し、双方の利益になるよううまく活用していただければ農業の構造改革へ向けて、(全体から見れば非常に小さいけれども)一つの光明になるかもしれない、というかなって欲しいと願っている。