アグリサイエンティストが行く

農業について思ったことを書いていきます。少しでも農業振興のお役に立てれば。

一般的な農家が目指している農作物とは

さて、前回のエントリー「Food Watch Japanでの反収の国際比較について」の続きである。当初はFood Watch Japanの岡本さんの連載第2回目に応じた記事にしようかと思っていたが、そちらの進展が早く、少々様相が変わってきたので、農家が出荷するに当たって目指している作物品質についてざっくりとした話をしたい。

岡本さんは品質とは何か、盛んに問いかけておられる。言いたいことはわかるが、としたくなるところであるが、おそらく連載がもっと進まないと真意は見えないので直接内容に言及するのは現時点では避けておく。

さて、普通に農家が目指しているのはどういう農作物だろうか。それは果たして一般ユーザーの求めるものと大きく乖離しているのか。

誰しも、最終的に求めているのは「出来るだけ楽して儲けたい」だろう。もちろん「消費者に良い物を届けること」が「儲ける」ことよりも優先している人もいるだろう。それらの優先順位も、この人はこっち、あの人はあっちとはっきり分けられるものではなく、人によってその比重は変わり、グラデーションのように徐々に変化していくものだと思う。

では、「儲ける」ということを最優先に考えた場合、そして最も多くの農家がそうであるようにJAや卸売市場にほぼすべての農作物を出荷している場合を野菜を例にとって考えてみよう。

この場合、すべての農作物に「出荷規格」というものがある。例えばアスパラガスでは秀品、優品に分けられる。秀品である条件は曲がりがない、カラーチャート(緑色の濃さを判定する)で春芽なら5段階の3以上の濃さがある、扁平でない、割れていない・・・と細かく決められている。これらに次ぐものが優品で、優品にならないものは出荷できない。その中で太さ(一本当たりの重さ)で階級が分けられ、とある農協の例では50g以上であれば3Lで2本で1束、35?50gで2Lで3本で1束など、秀品で5段階、優品で3段階、計8階級あるのだが、その中で市場(いちば)が秀の2Lは200円、Lは180円などと値段を決めていく。そういった市場出荷の場合あまり味は重要視されない。ほとんどは見た目での秀・優品と太さ(重さ)による規格のみだ。

アスパラガスの場合、規格別の単価はL?2Lが好まれるためか単価が高い場合が多い。つまり、農家としてはとにかくその太さが最も多くなるように、秀品の規格品が増えることを目標に栽培することになる。他の品目もほぼ同様で、秀・優品別に重さごとの規格になるが、その規格の中で最も単価の高い規格になるよう栽培が行われるわけだ。また、アスパラガスについては太いほうが結束作業のときの本数が少なく、切りそろえたりする手間が少なくなるため、そういう意味からも作業時間的に農家が有利になる(労働生産性が高まる)といえる。

この規格別に単価が変わってくる要因は何か。それは市場が売りやすいかどうかである。最近では昔のようなセリがほとんど行なわれていないので、大規模量販店が求めているものにほぼ直結している。これがユーザーの声をどれだけ反映しているかはわからないが、量販店の言い分としては一番価格の高い規格の商品が売りやすく、売れるということである(市場担当者を通した伝聞。筆者の力量不足で申し訳ない)。

以上のようなことから考えると、量販店としては最も売りやすく、儲かる規格から買っていく。そしてそれは市場・JAを通して生産者に示される。つまり農家はJA、市場、量販店というフィルターを通して間接的にユーザーのニーズを見ているわけだ。それがこの規格というやり方で示されている以上、農家としてはそれにしたがって収入を増やせるようにやっていくしかない。前回のまとめ(togetter)で今以上の収量増には消費・流通まで含めた構造的な問題と述べさせてもらったが、それはこういった規格品という「品質」を求めている現状のことを言っているのである。

とはいえ、消費者や量販店の方から変わってくれることだけを期待してただ待っているだけでは日本の農業も変わることはできまい。岡本さんもこのあたりをわかっていて仕掛けてきているのかどうか、今後の展開を見守りたい。