アグリサイエンティストが行く

農業について思ったことを書いていきます。少しでも農業振興のお役に立てれば。

一定レベルの理解を得ることの難しさ

ここで、私は「アグリサイエンティスト」を名乗ってはいるが、実は農業の試験研究現場から離れてもう6年半になる。現在の仕事は研究開発ではなく、その技術等を一般に普及することである。一般にとは言っても対象は生産者(農家)であり、目標は生産者の技術向上などによる経営状態の改善、ひいては産地全体の振興だ。

 

ということから、当ブログで農薬の安全・安心確保について解説を行ったのは消費者の農業への理解が少しでも進めば、と考えてのことである。これからもいろいろな項目にわたって発信を続けていこうと考えている。


しかし、こういった場で顔が見えず、リテラシーレベルもさまざまな人々にうまく物事を伝えるのは相当に難しいと思う。どこまでわかっている人を想定するのか、その線引きというかさじ加減をどうしたらいいのかまったく見えていないのである。なので、とりあえず一般的サラリーマンおよび主婦層を相手に、という自分勝手な根拠のない想定はしている。

 

そういうことについて、やや趣旨は異なるものの私の友人が「黒猫亭日乗」というブログで面白い考察をしているので、ご一読頂きたい。私はこれをうまく要約できないので、それについてはご容赦願いたいが、この友人は私が胸の奥にモヤモヤっと持っているさまざまなものを、(私が要望したのでも、悩みを相談したわけでもなく)見事に明瞭な言葉に変えてくれるありがたい存在なのである。やや(かなり?)文章が長くなる傾向があるので、読まれる方はそのあたり覚悟してお読みいただければ、と思う。

 

さて、こういう不特定多数(?)を相手にするブログという場では確実な定義のない”一般の人”を無理やり想定して書いておいて、興味のある人だけどうぞ、という姿勢でも何とかなると思うのだが、これが仕事でやっている講習会などになるとそうはいかない。現実的に可能かどうかは別にして、全員に均一な理解をしてもらうというのが究極の目標になる。


とはいえ、参加者である生産者のリテラシーレベルは上から下までかなりの開きがあり、どうしてもレベルの低い人に向けての話にせざるを得ない。生産農家といっても、本当の意味で農業収益だけで食っていける意識の高いプロ農家から、年金生活の傍らお小遣い稼ぎを、という趣味の園芸レベルの人までさまざまである。そういう人々が特定品目の生産部会という名の下に一堂に会して講習会を行うのだ。というわけで、レベルの高い人にとっては毎シーズン開催される講習会はきわめてつまらないものとなり、あまり参加しなくなるのである。ただ、関連する法律の改正や農薬登録の変更などがあるので、時々は参加しないといけないのだが。

 

ここで、先ほどリンクを張らせてもらった友人の考察と少々関係のある話になるわけだが、講習会が前述した理由から簡単なネタ中心になってしまうとは言っても、当然農薬取締法や登録関連の話をすることがあり、これらに関しては産地全体の問題になりかねないため、はしょったり簡易化したりが非常に難しい。エッセンスだけを簡単に理解してもらい、講習会などを重ねて徐々に理解を深めていく手法をとった場合、中途半端に聞いていた人などは、自分の頭の中でその前後を直結し、とんでもない誤った理解をしていることがある。だから、最低限誤解を受けたら困る部分は一通り説明することになる。


また、講習会に出席していながら「聞いてもどうせわからないから」と自分の頭で考えることを放棄し、虫や病気を見つけるたびにこちらに防除方法を聞いてくる人もいる。まぁ、理解できないまま勝手に登録違反の農薬を使われるよりずっとましではあるが・・。

 

ということから考えると、個人ごとのリテラシーレベルに合わせて個別指導をするのが一番理想的ではあるが、私は某市全域を一人で担当しているため、市内の生産者全員に個別指導するのは物理的に不可能である。農協さんと連携して、分担したとしても無理だろう。

 

というわけで、今日も次の講習会に向けて、ネタの作成に頭を悩ましているのである。

 

しかし、大人に対してこんなに悩まなければならないというのは一体どういうことか。ある程度のリテラシーレベルに持っていくために学校教育があるはずだと思うのだが、それが十分に機能しているかどうかは怪しいものだと感じている次第である。