アグリサイエンティストが行く

農業について思ったことを書いていきます。少しでも農業振興のお役に立てれば。

農業生産現場における新型コロナウイルス (COVID-19)対策について

昨年暮れに最初に中国で発生が確認された新型コロナウイルス(COVID-19)による肺炎は、現在世界中に拡散し、日本もその影響を免れていません。2020年4月22日現在で、日本は感染者数、死亡者数ともに低く抑えていて、今のところ健闘していると言えるでしょう。

 

とはいえ、素人目線では政府の対策がうまくいっているからとも思えず、日本人の清潔感からなのか、政策のまぐれ当たりも含めてたまたま運がいいのかわかりません。ただ一つ言えることは医療関係者の頑張りが死亡者数の低減に効いているということだけは間違いなさそうです。

 

さて、医療とともに人々の命を支える食料生産についてはどうなっているのでしょう。今のところ、農作物を含む食料品の流通については大きく滞ることはなく、感染のリスクを冒しながら流通業者の皆さんが頑張ってくれているようです。現在の状況についてはこれらの情報を一元的に管理している農林水産省のサイトを参照してみるのがいいと思います。

www.maff.go.jp

 

この農水省のサイトによると、主食であるコメの備蓄も十分であり、1993年に起きた米騒動の時のように買い占めに走る必要は全くありません。実は、あの時でもあんなに不足するほど少なくはなかったはずなんですが…。不足するかも、という心理が買い占めを加速し、売り場に物がないという情報がさらにそれに追い打ちをかけたのでしょう。

 

その他の野菜や果樹、畜産などの国内生産は現時点では全く滞っておらず、今年度の生産も普通に行われている状況です。となると心配なのは食料自給率が低い日本としては輸入食品ですが、そちらも今のところ流通は動いており、問題はありません。特に生鮮食品は買いだめに走ることで廃棄率が高くなり、状況をひっ迫させる可能性があるので避けるようにしてくださると助かります。

f:id:gan_jiro:20200422220341j:plain

フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com)

 

さて、生産者の立場から心配なのは自分のところから感染者が出たらどうしようか、ということではないでしょうか。この新型コロナウイルスの悪質なところは、潜伏期間が長く発症前から感染能力を持ち、且つ無症状で終わる感染者も感染能力があるというところです。このステルス性が今回の流行に関して対策を難しくしている最大のポイントでしょう。ということは、誰もはっきりした症状がない場合でも出荷物やパッケージを汚染している可能性があるということになるのでは、と考えるのも無理はありません。

 

ともかく、栽培管理や出荷調整に携わっている人に感染者が出た場合、そのまま出荷を続けていいのか、出荷されたものを回収する必要はないのかなど心配は尽きないと思います。確認された時点での出荷停止ならまだしも、回収となると何日も前の出荷物にさかのぼっていかなければならないのではないかと思われるかもしれませんが、その必要はありません。というのも、今のところ食品を通じた感染は確認されていないからです。

 

とはいえ、ではパッケージ等を通じての感染はどうなんだと思われるかもしれませんが、これも普段から行われている食中毒などの衛生対策をきちんとやっていれば通常問題はありません。新型コロナウイルスは、幸いにしてアルコール主体の消毒液による消毒が有効であり、また普通の石鹸による手洗いも感染確率の低減には大いに役立つからです。つまり、従来から衛生意識を持って取り組んでいる生産者(ほとんどの方がそうだと思います)なら出荷物の心配をすることはないのです。作業中は清潔な帽子、マスクなどを着用し、収穫物が触れるところ、複数の人が触れるところ(ドアノブなど)、作業台の上など定期的にアルコールなどで拭き、こまめな手洗いなど励行してください。

f:id:gan_jiro:20200422220730j:plain

フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com)

 

それでもはっきりと感染者が出てしまった場合はどうしたらいいのでしょう。これについては、農水省がガイドラインを提示(pdf)していますので、基本的にはこれに従っていただけるといいと思います。出荷停止などは必要なく、感染者と一緒に作業していた人(濃厚接触者)などには検査の上入院または自宅待機をしていただき、作業者を入れ替えるなどして事業の継続は可能とされています。ただし、これについては出荷先(JAや市場など)との関係もありますので、最終的にはそれらの関係各所との相談になるかとは思います。ともかく、慌てることはなく、各地方の保健所、農政局や県、市町及びJAなどに相談しましょう。

 

最後に消費者の方にもいくつかお願いです。

 

各種学校の休校措置に伴い、給食用食材が余っています。子供たちの健康維持のためにも飲めない事情がある人を除いて積極的な牛乳の摂取をはじめとして国産農畜産物の消費をお願いします。

 

また、農薬用マスクなどをウイルスの感染拡大防止用に転用するのもお控えください。医療用マスクの確保も大事ですが、食糧生産維持のためにも国内の農業が持続できる環境づくりも必要であり、農薬用マスクは必要なのです。

f:id:gan_jiro:20200422220904j:plain

フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com)

 

生産現場で農家も食料供給のために頑張っています。食料生産維持のためにも皆さんのご協力が必要不可欠です。まずはご自身と大切な方々の健康と命を守り、その上で国内の農業生産維持にご協力いただければこんなにありがたいことはありません。