アグリサイエンティストが行く

農業について思ったことを書いていきます。少しでも農業振興のお役に立てれば。

状況は厳しいが・・・逆にチャンスか?

さて、ずっと昨年の総括をしたいと思っていたが、どうにもうまくまとまらない。とりあえず総括とは言えないと思うが、感じたことをつらつらと書き連ねてみたい。

まず、昨年は特に後半で農作物の単価が低迷した。景気が悪く、デフレと言われる中でいろいろなものの単価が下がっているので致し方がないといえばそのとおりだが、農業資材の経費はほとんど下がっていないと言っていい。たとえば、施設園芸で必要な暖房用の重油などは一時のとんでもない高騰からはマシになったが、安くなったとは言い難い。以前のレベルに戻っただけとも言えるだけである。それは農薬や肥料などにも言える話だ。その中で農作物の単価が下がっているので、生産者の懐を直撃していると言っていいだろう。

私の身内でもいちごの生産農家をやっているのでその単価減は深刻である。特にいちごは生活に必要な食べ物というわけでなく、嗜好品であるためになければないで他のもので代用できるものである。だから、年末の需要期に入ったうえに、そのタイミングで出荷量が減ってきたにもかかわらず思ったほど単価が上がってこなかった。私の地域のいちごは10月末?11月初めに掛けて出荷が始まったが、その出始めの時期ですら思ったほど単価が伸びず、例年の4割減の単価ということもあった。早い時期の出荷は、いちごの株がしっかりできあがっていない時に収穫期を迎えるため、株弱りが起こる。それによるその後の最盛期の出荷を少々犠牲にしても、早い出荷による高単価で収益を稼ぐと言う戦略に基づいて行うものである。それが、思ったほどの単価が得られないということであれば、できあがっていない株に着果負担を掛ける分だけ損なのだ。そういったことからも特にいちご農家にとっては良くないスタートだったといえると思う。そこへ持ってきて、この冬は結構気温が低い日が続いているので、暖房費はますますかさむばかりであり、2重3重もの打撃である。

それ以外の品目でも、たとえばブロッコリーなどでは9月の小雨でほ場の準備がどんどん進み、そのおかげで定植がきわめて順調だった。また、その後は適度な降雨があったため生育も順調に進み当初の想定よりも早い出荷のものが多かった。このため、いろいろな作型の出荷が同時期に集中したことでそれでなくても安かった単価の上昇が見込みにくい状況となり、今のところ浮上の様子は見られていない。その他の露地野菜でも同じような状況が見られている。

それでなくても近年の単価安が日本の農家の収入を減らし、農業を魅力ある産業でなくしているのに、この状況は全く持ってどうしようもない。なんとか農業が日本の基幹産業のひとつであり、国産農作物を買い支えることが食の安全保障にも繋がることを少しでも沢山の人に理解していただきたいと思うが、私のような立場の人間に何ができるのか、もっと考えていきたい。考えるだけではどうしようもないので、とりあえず行動は起こさねばならないだろう。

しかし、逆に真剣に農業に向き合っている生産者にとってはこれはチャンスかもしれないとも思う。これから数年のうちに沢山の生産者が農業から離れることを余儀なくされるだろう。そこをくぐり抜けて生き残った者は貴重な国内農作物の担い手として本当に儲かる農業ができるかもしれない。もちろん、漫然と耕作を続けるだけではせっかく生き残ってもダメで、それなりの工夫は必要だと思うが生き残れる農家であるという時点で「できる」人だと思うので、心配はない・・・と思いたい。