アグリサイエンティストが行く

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発達障害が親の責任で?

産経新聞に、発達障害についてこんな記事が掲載された。

【解答乱麻】明星大教授・高橋史朗 豊かな言葉がけ見直そう

これによると、発達障害や軽度の自閉症は早期発見と適切な対応により予防することが可能とある。ただ、この話はこの明星大教授高橋史朗教授自身が唱えているわけではなく、さいたま市教育相談センターの金子保所長や「脳科学に基づいて発達障害児を治療指導している」という澤口俊之氏(誰?)、玉川大学脳科学研究所の塚田稔教授などの説のようだ。

この記事にはいくつかの問題点がある。

たとえば、記事にはテレビやDVDなどのメディアを遠ざけ、声かけやあやし、たかいたかいなどを実施したところ、人間性が回復した、とある。ということは、発達障害自閉症の人は人間性が大きく阻害されていると言うことか?ここに、発達障害に対する大きな差別意識が感じられる。

また、「このような昔から日本人が当たり前に行ってきた伝統的な子育てや「普通の環境」を取り戻すことによって、2歳までの早期に治療指導を行うことが、発達障害の予防になり、この「金子式治療指導法」と澤口氏のHQを伸ばす脳科学理論は「きわめてよく一致」すると同書は述べている。」ともあるが、「普通の環境」ってなんだろうか。それでは、発達障害自閉症児を抱える家庭は「普通の環境」ではないのか。自分たちの考える「普通の環境」を他人に押しつけて、発達障害児を抱える親に「自分の家庭環境は特殊なのではないか」と不安やプレッシャーを掛けているだけなのではないか。

定説としては、自閉症は先天性の脳の機能障害であるし、自分の子育ての実感からもその通りだと感じている。もし、発達障害自閉症が生まれつきの脳の障害ではなく、あるいは障害があるにしても対応如何で治療が可能だというのが本当に科学的知見に基づいたものであるというのなら、現在の定説をひっくり返す大発見だが寡聞にしてそのような話は聞いたことがない。

実は、私は3人の子持ちであるが、そのうち第1子である長女は重い知的障害を伴う自閉症である。だから、そういう新説が間違いない形(査読付きの専門誌に掲載されるなど)で出てきたのなら、何らかの形で情報が入ってくると思うが、何も見聞していないのである。

また、早期発見や声かけなどが重要であるというのなら、長女は比較的早期発見だったと思われるし、第1子であるからなおさらあやしたりたかいたかいしたり、声を掛けたり抱きしめたり、どこへでも連れて行ったし、手を掛けて慈しんできたつもりだ。環境が悪いというなら第2子の長男は長女に手がかかった分、ほったらかしになった割合は長女とは比較にならないくらい大きいが、それでもそれこそ「普通に」育ってくれている。

長女の通う養護学校でも同じ障害を持つ親御さんと会い、話をする機会もあるが、どの人も深く悩み、一生懸命子育てをしている。そんな親たちの育て方が悪いというのなら、日本人の大半は自閉症発達障害になっているはずであるが、そんなことは全くない。

とにかく、日々悩み、懸命に子育てをしている親たちを表面的な言葉だけで深く傷つけているこの記事については全く容認することはできない。もう少し科学的な態度とは何かと言うことを産経新聞には考え直して頂きたい。