アグリサイエンティストが行く

農業について思ったことを書いていきます。少しでも農業振興のお役に立てれば。

有機農業の会合で

先日、有機農業担当者の会合に出席した。

県の関係者のほか、JAの販売担当者、有機農業推進の民間団体、有機や減農薬にこだわった民間産直の経営者や有機農産物を生産する農業法人などが集まり、今後の当地域における有機農業の推進方策について議論を行った。

やはり、というか生産者などの団体が参加しているため、会における共通認識は「安全安心を求める消費者のニーズに合致し、なおかつおいしいものが有機農産物である」というものだ。少なくとも県関係者、中でも技術系の職員はわかっているはずだが、有機農産物は必ずしも安全安心を保証できるものではない。おいしさについては一言では語ることはできないが、これは別エントリーで述べているので、今回は触れない事にしたい。

ともかく、会の進行自体が「安全安心でおいしい有機農作物」という前提で進められている事に違和感を持った。あまりにもそういう前提が当たり前のこととして議事が進められていくものだからつい一言言いそうになったが、以前某偉いさんから「行政の関係者が有機農産物に対して生産者の前で否定的な発言をしないように」と釘を刺されていたためかろうじて「大人の態度」でこらえた。

しかし、本当にこのままでいいのだろうか。行政としても循環型農業の推進を掲げ、有機農業の推進法も施行されている現在、「上の方針に従う」公務員としてはこういった会を滞りなく進行させることも重要な職務であろう。とはいえ、せめて考え方だけでも科学者たらんとしている自分としては、その信条に逆らい続けるのも心苦しいものがある。

有機農産物の生産者が有機というものを「単なるイメージ的な付加価値である」と理解し、戦略として使うのならいいのだが、徹頭徹尾「いいもの」として話が進んでいくので少々つらかった。

もちろん、有機農産物そのものはともかく、それらを栽培し、高品質な農作物とする生産者の努力はすばらしいものである。本気で品質第一を目標に生産されているものは農産物そのものもすばらしいことが多い。しかし、これまでも繰り返し主張してきたように、「有機だから、自然だからいい」というものではない。農業自体すでに自然ではないのだから、品質と収量を上げようと思えば、その自然でない部分を何かしらそれ相応のもので埋め合わせなければならない。それが普通は、農薬であったり化学肥料であったりするわけだから・・・。

しかし、多くの農家や消費者が自然や有機農業とは無条件でいいものと思ってしまっている現状については、われわれのような立場の人間にも多大な責任があるだろう。今回の会でもそのあたりを指摘できなかった自分の態度にも忸怩たるものを感じる。自分はニセ科学批判もやっているが、これではニセ科学信奉者のことも笑えまい。だが、やはり職務的にも、そして人間としても無用に「その場」を荒らすのは得策とはいえないとは思う。大変に厳しい道だとは思うが、ソフトランディングを目指し、一人でも多くの人が正しいものの考え方を身につけてくれるよう努力したいと思う。