アグリサイエンティストが行く

農業について思ったことを書いていきます。少しでも農業振興のお役に立てれば。

イチゴにもその他の農作物にも、人間にも暑かった夏

いまさら話題として取り上げるのもどうかと思うが、今年の夏は非常に暑かった。・・と過去形で語っても良いものかどうか悩むところではある。今朝(9/24)は半袖だと肌寒いくらいだったが、まだ30℃を大きく越すような日が来ないとも限らない。まぁしかし、もう9月も終わりに近づいているので過去形でもよろしかろう(笑)。

当然のことではあるが、農作物にも様々な影響が現れた。自分が担当しているイチゴでは花芽分化が思うように進まず、定植が遅れている。イチゴについては、自分の方針としては株をしっかり作ってからの花芽分化後の定植が安定生産の胆になるため9月中下旬の定植を薦めている。特にうちの県で最近育成した品種は花芽分化が早く、土壌が高温になると根の発達が良くないため、9月上旬定植となると草勢と花芽のバランスが取れなくなり、収穫は早まる反面、頂花房(最初に出る花の房)の果実もあまり大きくはなく、第2花房が出てくるのも遅れる。この夏は異常な高温だったためこの傾向がさらに強まり、例年収穫安定を無視してでも早期出荷にこだわってきた生産者にもしっかりした株作りを優先して定植を遅らせるよう指導し、納得してもらった(一部例外もあるが・・・)。

ちなみに花芽分化とは目に見えて花蕾が出てくることではない。植物の茎の先端は、花が咲いているのではない限り葉がどんどん小さくなっていき、それがある一定以上の小ささになると巻きついたようになっている(いわゆる芽)のは農業の関係者でなくともご存知の方は多いと思う。それをさらに剥いていくと最終的には先端がドーム状の丸い細胞の塊(0.2?0.5mm程度)になっている。これを生長点というが、通常であればこの生長点に葉原基という葉の元になる角のようなものが生えているのだが、これが花蕾を形成し始めると形状が変わるのである。この段階を持って花芽分化した、というのである。

このように花芽分化は目に見えるものではないため、花芽分化確認後の定植といっても外見だけで判断できるものではない。このため、顕微鏡を使って検定する事になるが、生長点が露出するまで芽を剥いてしまい、検定した株についてはつぶしてしまう事になる。であるから、生産者にはたくさんの苗の中から代表的なものを2?4株程度持ち込んでもらい、その検定から全体を類推するという手法をとっている。

毎年9月は花芽分化の検定作業に追われる月である。例年であれば初日から少々は花芽分化している株を見ることができるのだが、今年の前半戦については「そうかな?」と思える程度のものがごく少数見られるのみで、ほとんどただの生長点ばかりであった。花芽ができていれば、そこに至るまでに葉を剥く枚数も少なく、また花芽であると報われたような気がして多少気持ちが楽になるのだが、花芽がないと徒労感が強く、余計に疲れる。このため、今年の花芽分化の検定作業は非常に疲れるものとなった。結局9月も終わりになると短日のため放っておいても花芽が分化してくるため検定は必要なくなるのだが、その辺りまではしっかり分化した花芽を見ることはかなわなかった。こんな年は初めてであった。

花芽分化そのものは一度スタートすると逆戻りすることはない。時々脱分化が起きているという表現をすることもあるが、これは花芽分化を検定した株(たまたま花芽分化していた)とその他の株(花芽分化が遅れていた)の個体差がそのときの環境によって拡大されたためそのように見えるだけのことである。

さて、その他の農作物であるが、お盆明けからずっと青ネギの相場が高かった。夏の高温と少雨のため、本来その時期に出荷されるはずだった青ネギの生育が遅れに遅れ、出荷が大幅に減ったためだ。このため、kg単価が普段の3?5倍で推移したが、生産者も出荷するものがなく高単価を指をくわえてみているほかはないという人が多かった。また、せっかく生育しても根腐れ性の病害(高温性のものが多い)が多発し、出荷量ががた落ちということもあった。その生育遅れが、この雨でどのくらい取り返せるのか、また一気に出荷が始まったときに相場がどうなるのかまだまだ悩みは尽きない。

ブロッコリー等の秋冬野菜では、せっかく定植しても水をやることができず、また完全に近いくらい土壌が乾燥しているので手で灌水したくらいではまったく追いつかず、初期生育が停滞するという事態に陥った。これも、これからの雨で今後はうまく生育してくれればいいのだが・・・。

以上のようなおかげで、この9月は非常に忙しかった。まだ9月は終わっていないが、月末まで予定はいっぱいいっぱいである。生育不良や植物の病気に伴う相談電話もひっきりなしである。来週山場を迎える大きな仕事もあり、現在結構追い詰められている気分である。今回のエントリーは何が言いたいのかさっぱりわからないが、少なくとも自分のガス抜きにはなったと思う。来週の山場に備え、これで少しはすっきりした気分で望めれば言うことはないのだが。