アグリサイエンティストが行く

農業について思ったことを書いていきます。少しでも農業振興のお役に立てれば。

じつは花を食べている。イチゴは果物?野菜?

まずはイチゴの分類について

イチゴは果物では?と思われる方もおられるかもしれませんが、日本の園芸における分類では草本性作物(樹木にならないもの)は野菜に分類されます。なので、メロン、スイカなども野菜ということになります。


現在栽培、流通されているイチゴはほぼバラ科バラ亜科オランダイチゴ属(Fragaria ×ananassa)です。ラズベリーブラックベリーなどのキイチゴ属や日本に自生するキジムシロ属のヘビイチゴは別種です。なお、ヘビイチゴが有毒であるというのは俗説で、食用可能だが食味的に食用としてはあまり適しないということです(食べたことないけど)。


現在の栽培種であるイチゴは、他のオランダイチゴ属の野生種に比べてはるかに大果で多収なんですね。しかし、どのようにしてこのような栽培種が成立したのかは明確な記録はありません。わかっているのは大果系のチリ種と北米産のバージニア種がフランスで交雑してできたらしい、ということまでです。


ともあれ、栽培種のイチゴは8倍体で、一般的な野生のオランダイチゴが2倍体であることから考えると、果実や植物体の大型化にはこの倍数性も関わっていると思われますが、栽培種が成立した時代性から考えて染色体の人工的な倍化は不可能で、自然倍化したものが選抜された結果なんでしょうね。

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イチゴの原産地、来歴は?
近代的栽培種の片親となったバージニア種は、16世紀ごろから北米への探検者や入植者によってヨーロッパへ持ち帰られ、それまでのヨーロッパ在来種に比べて大果で鮮やかな赤が受け入れられ、栽培品種までに育成されるようになりました。


チリ種は、ヨーロッパ(フランス)の気候ではなかなか開花せず、開花しても持ち帰られた株はすべて雌株だったため花粉がなく結実できませんでした。そこでバージニア種の雄株を混植してその花粉で結実させることにしたようです。


その時、収穫しきれなかったりしたために落果したものなどから落ちた種子(痩果)が発芽し、自生していたものから今までになく生育が旺盛で大果の株が見いだされ、種として固定されて近代栽培種になったのではないかと考えられています。


このようなことから、近代栽培種の起源は1730~50年ごろのフランスブルターニュ半島プロガステル町と考えられています。日本ではオランダが起源と考えられていて、オランダイチゴ属という名前が付けられていますが、これは江戸時代にオランダを通じて導入されたことから生まれた誤解のようですね。f:id:gan_jiro:20140406085649j:plain


日本では
日本におけるイチゴは、日本書紀に「いちひこ」の記述が見られ、キイチゴヘビイチゴなどを総称したものと思われます。また、枕草子には「いちご」の記述が2か所存在します。なお、日本にもヘビイチゴのほか日本海側を中心とする高山地帯になんと「ノウゴウイチゴ」というオランダイチゴ属の自生種があります。


我が国への園芸作物としての導入は、文久の初めごろに川崎道民が遣米・遣欧使節団に随行した際に園芸作物の種子を数種購入し持ち帰ったのが始まりともされています。これを1863年に伊藤圭介が翻訳して文書にしたのが確実な導入の最古の記録と言われています。


我が国で初の営利栽培としては、1893~94年頃に東京や横浜で始まったとされていますが、当時は外国の珍しい果物という認識で、一般には普及しませんでした。また、欧米ではいくつかの栽培品種が育成されていましたが、当時の輸送経路では苗を持ち帰るのが困難で、導入は進まなかったといいます。


そこで、福羽逸人はフランスから栽培種の種子を購入し、そこから育てた実生苗から1898年に選抜育成したのが日本初の栽培種「福羽」です。この福羽は長きにわたって日本の主要品種となり、水田裏作の露地栽培や石垣栽培などに用いられました。


その後、イチゴの育種は国をはじめ、各県の関係機関や企業、また個人によって盛んにおこなわれるようになり、品種登録出願件数は21世紀に入って168件となっていますが(平成28年8月1日現在)、自分のような栽培指導を生業としている人間でもそのすべては到底把握できていないほどなんですね。


営利栽培が始まった当初は露地栽培が多く、イチゴの旬と言えば初夏でしたが、1950年代後半からプラスチックフィルムを用いた施設栽培(ビニールハウス)が増加し始め、また、休眠が浅い品種を利用して秋に花芽を分化させ、年内に収穫を開始して初夏まで取り続ける促成長期栽培が始まりました。


現在ではイチゴ出荷量のピークは全国的には1~5月になっていて、もともとの旬である初夏にも出回ってはいますが、需要はクリスマス~正月商戦に高まる傾向になっています。果実品質でも、株がしっかり出来上がったころで、低温でじっくり着色する1~2月が食味もよく、現在では旬と言えるかもしれないですね。


ちなみに、日本のイチゴ生産量は2013年の統計で世界でも10位となっていて、大きな産地であるといえますが、そのほとんどが家族労働による施設園芸に支えられていて、労働生産性が高いとは言えません。とはいえ、独自品種も多く、独特の発達を遂げているのでイチゴ生産大国と言って差し支えないでしょう。