アグリサイエンティストが行く

農業について思ったことを書いていきます。少しでも農業振興のお役に立てれば。

葉が玉になる ~アブラナ科結球野菜~

数年前、Twitterで野菜の来歴を解説していく、というシリーズを展開したことがありました。それらをブログに転載していくというのをやろうやろうと思いながら、トゥギャッターにまとめられてるので良いかな、とやり過ごしてきましたが、ネタが無いときはこれをぼちぼち薦めていこうということにしました。で、今回はアブラナ科結球野菜のツイートをまとめ、修正を加えてお届けします。

 

キャベツ畑のイラスト

まずはキャベツから。

キャベツはブロッコリーやカリフラワーと同じく、イギリスから地中海にかけて自生するヤセイカンランおよびそこから育成されたケールが起源です。石灰質の多い地中海沿岸に多く自生していることから石灰を好む性質であることがわかりますね。

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2001年とあるので、試験研究機関で土壌肥料関係の仕事をしていたときの写真。土壌溶液を採種し、環境への流亡を計っていたのだっけ…。まだ30代半ばか。


古代ローマギリシャで古くから利用されていたことはブロッコリー等と同じですが、ヨーロッパで園芸種として栽培されるようになったのは9世紀ごろといわれています。そこから16世紀にはカナダに導入され、その後アメリカに導入されました。17世紀からアメリカで栽培されいていた記録が残っています。


日本には明治初期に導入され、明治30年ごろには自然交雑等により分化した品種群からの選抜が行われました。大正に入って栽培面積も増加し、さらに昭和初期にかけて国内での育種も本格的に行われるようになりました。


その後第2次大戦などで育種も栽培も停滞していましたが、戦後、消費の拡大とともに需要が増加して、作型分散によって周年出荷が行われるようになりました。育種技術も発達し、自家不和合性を利用した一代雑種(F1)も作出されて、現在ではF1が品種の主流になっています。

 

野生種は1年生で低温感応なしに花芽分化しますが、栽培種はほぼ2年生で低温に遭うことで花芽分化して抽苔(花芽が伸びること)します。キャベツはある程度栄養生長(花芽を作らない生長)してから結球し始めるため、定植が遅れて小さいうちに低温にあってしまうと結球せずに抽苔してしまいます。


日本への導入、普及が古かったため様々な地域・作型に適応した品種が多数作られました。ちなみに普通に緑色のキャベツはすべて同一種ですが、ムラサキキャベツ、サボイ(縮緬甘藍)は変種となっています。


ちょっと脱線。札幌大球甘藍について。


札幌大球甘藍は札幌近郊で作られる大玉品種で通常の5~10倍になり、10㎏を超えるものも収穫されます。主に加工用ですが、札幌では普通の家庭でも購入され、ニシン漬などに利用されると聞いています。しかし本当にそんな大きなキャベツを一般人が買うのでしょうか?持って帰るだけでも大変だと思いますが。

 

ということをつぶやいていたら、Twitterで相互フォローのアサイさんからインスタグラムのリンクをご提供いただきました。アサイさん、ありがとうございます( o'∀')o_ _))ペコ
アサイ @poplacia Fig1. 北海道の一般家庭において購入された札幌大球(キャベツ)と2歳児とのサイズ比較

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アサイ @poplacia Fig.2 消費目的で購入された札幌大球(キャベツ)と一歳児(当時)とのサイズ比較 

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さらにハボタン。

その形態が結球しないキャベツに酷似しているハボタンはキャベツの変種というよりケールから育成されたと思われます。江戸時代の貝原益軒の著書「大和本草」にはおそらくケールと思われるオランダナという野菜が紹介されており、それが観賞用のハボタンのもとになりました。


白菜のイラスト(野菜)

で、ハクサイへ。

ハクサイは北・東ヨーロッパやトルコ高原に自生するブラシカ・ラパがその起源であり、もともとは不結球性でした。これがアフガニスタンチベット、またコーカサスやモンゴルを経て栽培作物として中国へ導入されたと思われます。


わが国には明治初期に中国(清)から種子が持ち込まれ、栽培がはじめられたが初めのうちはなかなか結球せず、普及しませんでした。同時期に清国が東京の博覧会に出品したハクサイの株を愛知県が譲り受けて研究し、10年ほどかかって結球に成功しました。その後愛知県下で栽培が始まりました。


そのほかにも19~20世紀初頭にかけて別ルートで茨城、宮城、長崎などにいずれも清国から導入され栽培されていましたが、やはり結球しないなどの理由で栽培が中断していました。その後、愛知や宮城などで安定して採種できるようになり、栽培が広がるようになりました。


ハクサイが急激に普及し始めたのは、日清、日露戦争などの後、経済的な発展があったことも要因であるが、それらの戦争で中国などを訪れた兵士たちがハクサイの存在をそこで認識し、国内に紹介したことも要因だといわれています。


同じ結球するアブラナ科野菜でもヨーロッパで普及し、品種が分化したキャベツと違い、ハクサイは中国を中心としたアジアで発達したという違いが面白いですね。ハクサイは中華料理のほか、韓国のキムチ、日本の漬物、鍋物などアジア料理には欠かせない存在になっています。

ミルフィーユ鍋のイラスト
ハクサイの仲間には結球しないものもあり、丸葉山東、切葉山東(ベカナ)などがそれにあたり、大阪シロナやマナ、広島菜などもハクサイの血を引きますが、これらはいずれ結球しないアブラナ科葉菜類として取り上げたいと思います。

 

番外編。ハクラン。


最後に、キャベツとハクサイの雑種であるハクランについても取り上げておきましょう。通常、キャベツとハクサイは染色体数が違うため、交雑しないかしても一代限りになります。そこで、薬剤処理等によって染色体数を倍加させて交雑して、生殖能を保持させる方法でまず作出されました。


その後、1998年に石川県の農業総合研究センターで細胞融合による体細胞雑種でもハクランが作出、育成されました。こちらをバイオハクランと呼んで区別する場合もあります。


ハクランはその名のとおりキャベツのようにもハクサイのようにも料理に使えます。用途も広く、食味もよいとされますが(私は食べたことがありません)、なぜか普及していません。もし、見かた方がおられたら、ぜひ試食してその結果をご報告いただけると非常に嬉しいです(*´∀`)。

 

というわけで、結球するアブラナ科野菜についてはこの辺で勘弁しておいてやる。・・・いえ、勘弁してください(爆)。