アグリサイエンティストが行く

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Wikipediaの硝酸態窒素の解説が色々アレだ!

定期的に読んでいるFood Watch Japanというサイトで、少し前から連載が始まっている岡本信一さんの連載「「よい農作物」とはどんな農作物か?[14]硝酸態窒素が増える問題の本質」でWikipediaの硝酸態窒素の項目が間違っているとの記述を見かけた。そこではその間違いの中身が話の本筋ではないため、その間違いについて詳しく解説されていない。そこで、こちらではその記述のどこが間違っているのか、何が問題なのかを指摘しておきたい。

Wikipediaの記事は2013.2.16現在まだ修正されていません。

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土壌中の硝酸態窒素
通常、土壌中の無機窒素は、アンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、硝酸態窒素の3つの形で存在する。通常、有機物が分解されるとまずアンモニア態窒素が生成されるが、土壌中の硝酸菌の作用で亜硝酸態窒素を経て硝酸態窒素にまで変換される。植物は硝酸態窒素のみしか、根から吸収して利用できないため、窒素固定菌がいない環境では生育できない。これを補うため、窒素肥料の中には硝酸態窒素が大量に含まれている。
?引用終了?

まず、無機態窒素の土壌中での存在形態、有機態窒素からまずアンモニア態が生成され、亜硝酸化成菌、硝酸化成菌の作用で硝酸態窒素になる。ここまではいいだろう。しかし、植物は硝酸態窒素のみしか吸収できない、というのは間違いである。

詳しくは過去記事「有機物施用とアミノ酸吸収について」を参照いただきたいが、昔から植物は硝酸態窒素だけではなく、アンモニア態窒素も吸収することは常識であったし、最近ではアミノ酸も直接吸収することが知られている。

例えば、水稲は根が常に湛水状態にあるため、土壌が還元状態(酸欠)になっており、土壌中にはほぼアンモニア態窒素しかない。このため、水稲は積極的にアンモニア態窒素を吸収する。また、一般に畑地では土壌の通気性がよいため酸化状態になっており、このため畑地作物は硝酸態窒素を好むが、例外としてレタスやネギはアンモニア態窒素を好む。

また、窒素固定菌がいない環境では生育できないというのもどうかと思う。有機物のサイクルが始まってさえいれば、有機物を分解する菌や硝酸化成菌などがいれば植物の生育は可能である。化学的に窒素肥料を合成しなければ、空中窒素を固定できる動植物は存在しないのだから地球全環境的にはそうかもしれないが、そうでなければこの記述は色々と誤解を生むだろう。

最後の、「窒素肥料には大量の硝酸態窒素が含まれている」の記述も間違っている。これは、先ほど紹介したFood Watch Japanの岡本信一さんの記事にもあるとおり、窒素肥料は硫安(硫酸アンモニウム)や塩安(塩化アンモニウム)などアンモニア態窒素のほうが多い。もちろん、これらは畑地土壌に施用されれば速やかに硝酸態窒素に酸化されるが、肥料そのものには硝酸は含まれていない(硝安など例外もある)。

このWikipediaの硝酸態窒素の項目は、もしかしたら化学肥料を忌避されている方が書いたものかもしれない。忌避するのはかまわないが、多くの人が参考にするサイトで、このような明らかな間違いを書き込むのは色々と社会的損失が大きいのでやめていただきたい。