アグリサイエンティストが行く

農業について思ったことを書いていきます。少しでも農業振興のお役に立てれば。

葉っぱを食べる ~煮物、炊き物、炒め物~

今回は菜っ葉類をお送りします。それにしても、アブラナ科は分類が本当に難しい。ほとんどの花はナバナとして食べられるし、葉っぱも同様。後は根さえ太れば・・・。というわけで、「たまたま」葉を食べられるようになったアブラナ科アカザ科のほうれん草のお話をお届けします。

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それでは今回の菜っ葉類ですが、はじめはこれも「アブラナ科」の括りでやるつもりでしたが、そうするとホウレンソウなどあぶれるものが出てくるし、それらはどこで取り上げるの、ちょっと難しいなということになるのでそれらも含めて「菜っ葉類」ということでやりたいと思います。


まずはアブラナ科のツケナ類から取り上げてみましょう。いわゆる非結球アブラナ科葉菜類と呼ばれるものになります。これらは形態がさまざまに分岐し、非常にたくさんの品目、品種がありなかなか個別には取り上げにくいです。なので、まとめての話になることをお許しください。


先ほども言いましたが、全品目取り上げるととんでもないことになるので、代表的なものをしかもまとめて取り上げてみましょう。よくスーパーなどで流通しているものとしてはコマツナ、キョウナ(ミズナ)、ヒロシマナ、(大阪)シロナ、ノザワナ、タカナ、中国野菜のチンゲンサイ、タアサイあたりになると思います。


さて、例によってアブラナ科ツケナの栽培種は野生種(原種)からどこで成立したのかは明らかにはなっていません。他のアブラナ科野菜同様交雑の容易さ、表現型の多彩さ、栽培種が逸出して容易に野生化することなどから、その来歴を追うことが非常に難しいからです。


ツケナ類の野生種は、北ヨーロッパ各地にみられることからこれらが搾油用あるいは食用として利用されるようになり、そこからツケナ、カブが分岐されていったものという推測がなされていますが、近東や中央アジアが起源であるという説もあります。

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提供元:フリー写真素材ぱくたそ

 

ツケナ類がヨーロッパ起源であるとしても、そこで葉菜類として利用されることはあまりなく、唐の時代以前に中国に導入され、そこで菘(シュウ、スズナ=カブ?)として利用され、ここからハクサイなども分化したようです。いずれにしても、栽培が成立したのは中国であるといえます。


タカナについては若干事情が異なり、紀元前からローマやギリシャで栽培されていて、葉は煮食用に、種子は消化剤や解毒剤として用いられていたようです。これが中国に導入されてから品種の分化が起こり、アジア全域に広がっていきました。日本でも多様な品種分化が起こっています。


ツケナ類が日本に導入された来歴等は明らかになっていません。しかし、古いものであることは間違いなく、古事記に「菘」の記載があり、吉備国の産地でとれたものを羹(あつもの=熱い汁もの)に用いたとしています。また、本名和草にも多加奈(タカナ)と訓じた記載があります。


タカナはカラシナの変種ともされ、古くから日本に導入されており、「和名抄」にもその名が見られます。高菜漬けは全国各地に広がっており、近畿地方ではめはりずし、九州では阿蘇の高菜飯や現代では福岡のとんこつラーメンのトッピングなどに利用されいています。


タカナの日本導入もツケナと同時代と考えられ、和名抄や本名和草に加良志、芥、辛菜や多賀那、宇岐菜などの名で記載されています。


ちなみにタカナは香川では「マンバ」と呼ばれ、それを甘辛く炊いた郷土料理を「マンバのけんちゃん」と呼ばれ、親しまれています。大根の葉を甘辛く炊いたものが好きな人は是非試してみてくださいね。

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ただ、カブのところでも言及しましたが、東北地方等のカラシナ、タカナなどには西欧系品種の特徴を残した品種が古くからあり、現在も山間地などにわずかながら残っている例もあります。このことから、中国からばかりでなく、シベリア経由で導入されたものもあるのではないかと考えられています。


ともかく、ツケナ類は導入後日本でさまざまに分化し、また後年導入された品種もあり、多様な品種群を構成しました。タカナは江戸時代の農業書ではツケナとの区分が明確にされ、葉を掻きとって食べる端境期の葉物とされています。


その後明治に結球ハクサイが導入され、大正に入って栽培面積が増加してくるとツケナの面積は減少していきました。この中で失われた在来品種もあったことは惜しいことですね。


さて、次に科を変えてホウレンソウです。ホウレンソウはアカザ科、あるいはヒユ科アカザ亜科とする分類もあります。原産はアフガニスタンなど中央アジアで、ペルシア(現在のイラン周辺)では古くから栽培されていました。


中国には7世紀ごろ回教徒によって伝播されたと考えられています。そこで東洋種の品種群が発達し、日本にはかなり遅れて導入され、17世紀の文献にその名前が見られます。これが現在の日本における在来種となりました。


ヨーロッパには同じく回教徒の手でイランからアラビア、北アフリカを経て11世紀に導入され、まずスペイン、その後ヨーロッパ各国に広がったと思われます。ドイツでは13世紀、イギリス、フランスでは16世紀から栽培の記録が見られます。


ヨーロッパでは、オランダで特に品種育成が進み、採種地として知られるようになりました。その後アメリカには19世紀から20世紀初頭にかけて導入されました。


その後アメリカでは缶詰加工の発達、栄養価が高いことなどから普及が進み、栽培が拡大しました。日本ではホウレンソウの缶詰はあまり見かけませんが、アニメのポパイとのタイアップでよく知られてはいますよね。


日本でも昭和になってから栄養知識の普及とともにビタミン類や鉄分などのミネラルの補給源として栽培面積が増大しました。当初は西洋系品種を春~夏播き、東洋系品種を秋まきにすることが標準的でしたが、現在ではその交雑系、同様にF1が育成されています。


「菜っ葉類」は以上です。なんかちょっと半端な気はしますけど、野菜類の分類は一般にわかりやすいようには難しいのでご勘弁を(;´Д`)